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「平和の火」でアート チン↑ポム 広島で新作展 批判に応える表現模索

 東京を拠点に活動するアーティスト集団「Chim←Pom(チン←ポム)」が16日から、広島市中区上八丁堀のギャラリーGなど市内11カ所で新作展を開く。2008年、飛行機で同市上空に「ピカッ」という煙の字を描いた表現で批判を浴びて謝罪して以来、初の広島展になる。

 リーダーの卯城(うしろ)竜太さん(35)は「『ピカッ』を不快に思った人、今も不快に思っている人がいるのは分かる。それでも僕らは表現を続け、見てもらうことで批判に応えるしかない」。ギャラリーGから打診を受けた際、やるかどうかメンバーの意見が割れたという広島展への思いを語った。

 出展作は、広島原爆の残り火とされる「平和の火」を使った絵画230点。火が保存されている福岡県八女市星野村を訪ね、種火を分けてもらった。板にひもを貼り付けて下絵を描き、火を放った焦げ跡やすすを絵に仕上げていく。

 「ピカッ」騒動の後、広島市現代美術館で予定されていた個展は中止したが、東京などで「広島」と銘打った展覧会を重ねてきた。11年の東日本大震災と福島第1原発事故を受け、原発事故にちなむ作品も加えていった。

 「巨大な被害を前にアートの無力さを痛感するが、無力感で何もしないのがいいのか。反射神経で表現していくのが僕らの流儀」と卯城さん。東京・渋谷駅に飾られている岡本太郎の壁画「明日の神話」に原発事故の絵を付け加えた「事件」も報じられた。

 中区の市中央公園を使った今回の制作を見守る人の中に、5年前、「ピカッ」の表現に憤りを抑えきれず、市現代美術館に「メンバーに会わせろ」と押し掛けた中区のレコード店経営大小田(おおこだ)伸二さん(47)もいた。「『ピカッ』のやり方は今も気に入らないが、へこたれずに表現し続ける姿勢には共感する。生身の人間として付き合い、どんな新作か見てやろうという気持ち」と話す。

 「うちでも展示したい」という申し出も相次ぎ、会場は11カ所に。卯城さんは、被爆者団体に謝罪した経緯を振り返って言う。「心を傷つけた被爆者や遺族の方々に申し訳ないと思い、納得して謝った。でも、『広島市民』の名で表現を拒否されるのは違うと思うし、応援してくれる人もいる。広島の人、一人一人の感性で見てほしい」(道面雅量)

Chim←Pom
 2005年に結成した男女6人のアーティスト集団。「現代社会に全力で介入する」表現を志し、パフォーマンスを記録した映像作品などを国内外で発表している。今冬に旧日本銀行広島支店(広島市中区)で展覧会を予定し、新作展はそのプレ企画。会期はギャラリーGが16~21日で、会場により異なる。

(2013年7月16日朝刊掲載)

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