×

社説・コラム

社説 海自潜水艦の衝突 なぜ教訓に学ばぬのか

 あってはならない事故が再び起きてしまった。

 海上自衛隊呉基地を母港とする潜水艦「そうりゅう」が、高知県足摺岬沖で民間の貨物船と衝突した。貨物船は5万トンを超す大型船だった。もし小さな船だったら、大惨事を引き起こしていたのではないか。

 米ハワイ沖で愛媛県の高校の実習船が原子力潜水艦に衝突され、9人が死亡したえひめ丸事故から20年すぎたが、潜水艦が民間の船舶と衝突する事故は後を絶たない。重い教訓から一体、何を学んできたのか。海自は、安全意識をゼロから構築し直さなければならない。

 そうりゅうは潜望鏡を出すため、水面近くまで浮上した際、貨物船の底をこするようにぶつかった。潜水艦の乗員3人が擦り傷や打撲程度の軽傷を負い、潜望鏡など船体上部が一部破損した。貨物船は船首下部に広範囲に擦り傷やへこみがあり、一部に約20センチの亀裂もできていたが、幸いけが人はいなかった。

 潜水艦は通常、周囲を探る水中音波探知機(ソナー)の死角がないよう船体の向きを変えながら段階的に浮上する。海面近くでは、潜望鏡やレーダーなども使って洋上を確認。一連の情報は艦長などに報告され、安全だと最終判断した上で船体を海上に出す。確認手段は複数あり、ミスが一つあっても事故に発展する可能性は低いという。

 しかし今回は海面近くまで浮上した段階になって潜望鏡で貨物船を発見、よけきれずにぶつかった。事故前にはソナーや潜望鏡の不具合は報告されておらず、ソナーによる確認などを手順通り行わなかった人的ミスや艦内の意思疎通に問題があった可能性がある、と第5管区海上保安本部(神戸)はみている。

 現場の周辺海域はカツオ漁などが盛んで漁船の行き来も多い。潮流も複雑で、船の音をソナーでは把握しにくいようだ。そんな海域で、なぜ浮上しようとしたのか、判断の是非も問われなければならない。

 そうりゅうは定期検査のため長期間、洋上を離れていた。事故当日は高度な任務への復帰に向け、乗員の訓練中。最も危険といわれる水面近くまで浮上した段階での事故だけに、訓練の不十分さがチェック不足や手順の誤りにつながった恐れはないか、疑問が拭えない。訓練中ならなおさら浮上には慎重さが欠かせなかったはずである。

 驚くのは、防衛省への一報が発生から3時間以上たっていたことだ。アンテナを損傷して外部との通信が一時不能となり、携帯電話が使える海域まで移動したからという。非常時の通信手段はなかったのか。遠洋での事故だったら、どうなっていたのか。危機管理上、見過ごせない。早急な対応が必要だ。

 海自の潜水艦が民間の船舶と衝突する事故は頻発している。1988年には、なだしおと釣り船が神奈川県沖で衝突、釣り船の乗客ら30人が死亡した。見張りの不適切さや艦内での連携不足が問題視された。2006年には、呉基地を母港とする練習艦あさしおが宮崎県沖で浮上中、タンカーと衝突、チェックの不十分さが指摘された。

 こうした事故を二度と起こしてはならない。今回の原因究明とともに、再発防止に向け、ハードから実地訓練といったソフト面まで洗い直しが急がれる。

(2021年2月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ