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社説・コラム

天風録 『くわ打つにも気を遣う土地柄』

 くわ一つ打つにも気を遣う土地柄だそうだ。沖縄本島南部。「グブリーサビラ(失礼します)―と私たちは声をかけ地に眠る人を驚かさない」。2年前、悲惨な地上戦を語り継ぐ翁長(おなが)安子さんに教わった▲先の戦争では軍部が「根こそぎ動員」を強いて県民を米軍との戦闘に巻き込んだ。あまたの壕(ごう)やガマ(洞窟)に遺骨や遺品が取り残され、志ある人たちが今も泥にまみれて探し求める。「遺骨収集に終わりはない」というのが、この島の常識だろう▲ところが名護市辺野古の埋め立てに、南部の土砂を運ぶという。沖縄戦の死者を米軍基地の礎にする―。許し難いと思う県民感情は理解できる▲遺骨を収集する人たちが知らぬ間に、ガマで開発が始まっていたという報道もある。先日の国会で政府は追及を受けた。防衛相は「業者が目視で遺骨を調べる」と答えたものの「土に埋もれた骨を知っているのか。手にしてみないと骨と分からない」と地元選出議員の反論に遭う▲翁長さんは骨を拾うと、「ウンチケーサビラ(ご案内します)」ともつぶやく。恐らくは海のかなたにある楽土に導こうと、人は願うのだろう。ご案内したいのは、ごう音響く滑走路ではあるまい。

(2021年2月22日朝刊掲載)

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