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社説・コラム

社説 辺野古に陸自部隊 民意無視の「上塗り」だ

 陸上自衛隊と米海兵隊が、沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブに、陸自の離島防衛部隊「水陸機動団」を常駐させることで、2015年に極秘合意していたことが判明した。

 キャンプ・シュワブは、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先として政府が埋め立てを進める辺野古新基地と一体運用される。陸自との共同利用が実現すれば、基地機能の強化や固定化につながり、沖縄にさらなる負担を強いることになる。辺野古への新基地建設を、「負担軽減のため」としてきた政府の説明とも矛盾しよう。

 これまで沖縄の人たちは知事選や県民投票を通し、辺野古の埋め立てに繰り返し「ノー」を突き付けてきた。7割の人が反対の意思を示した県民投票から今月で2年。この間、政府は地元の声に耳を傾けることなく、工事を進めてきた。

 この合意も地元には全く説明されていない。政府のやり方は重い基地負担を強いられる沖縄への思いが全く欠けている。これ以上、民意無視の上塗りを続けることは許されない。

 見逃せないのは、共同利用が防衛省全体の決定を経ずに合意されていることだ。文民統制を逸脱している。

 岸信夫防衛相は先月の参院予算委で、部隊の配備は考えていないと強調しつつ、基地に陸自施設を設ける図案について「きちっとした計画があったわけではないが、そういう形での図があったという話はある」と述べ、陸自内での検討を事実上認めた。制服組の勇み足ではなかったのか。政府は真実をきちんと調べて国民に明らかにし、文民統制の鉄則を確認すべきだ。

 「水陸機動隊」は18年3月、米海兵隊をモデルに発足。離島が侵攻や占拠された場合、奪還作戦に当たるという。その部隊を常駐させる合意は、東アジア戦略の重要拠点として利便性の高い足場を沖縄に残したい海兵隊と、対中抑止力のために共同利用をもくろむ陸自の思惑が一致したということのようだ。

 バイデン米政権は、対中国で同盟国との関係強化を鮮明にしている。尖閣諸島周辺での中国公船の活動が活発化する中、警戒する必要はあろう。

 そうした状況下で、今は凍結されている陸自常駐の構想が、地元を無視して進められる可能性はないだろうか。岸防衛相は今は考えていないとする。しかし、これまでの政府の強硬姿勢を考えると心配になる。

 辺野古の新基地建設計画はもはや破綻している。マヨネーズ並みの軟弱地盤が見つかり、当初5年としていた工期は少なくとも9年余りかかり、工費も3倍に膨らんでいる。辺野古移設の目的について、政府は「普天間飛行場の危険性を早期に除去するため」と説明してきた。しかし肝心の普天間飛行場の返還時期もめどが立たず、「早期」は達成できそうにない。

 埋め立ての土砂を、沖縄戦の激戦地だった本島南部から調達することも検討されている。今なお戦没者の遺骨が多数眠る地である。遺骨が含まれているかもしれない砂を基地の埋め立てに使うなど、沖縄県民の心情を考えればあり得ないことだ。

 陸自常駐の合意が判明し、沖縄の不信はさらに深まっている。政府が根本的に姿勢を改めるほかに、打開策はない。

(2021年2月27日朝刊掲載)

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