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水彩でよみがえる「興南寮」 南方特別留学生が生活し被爆 広島の尾崎さん 記憶たどり描く

 太平洋戦争中に広島文理科大(現広島大)で学んだ南方特別留学生が過ごした「興南寮」(現広島市中区大手町)の水彩画を、近くに住んでいた尾崎稔さん(89)=南区=が完成させた。記憶をたどって彩色し、原爆で焼失する前の姿をよみがえらせた。

 自宅から修道中(現修道中・高)への通学時に見ていた光景を、縦40センチ、横50センチに描いた。2階建てで黄色がかった外壁。自宅や友人の家、市役所も入れた。

 南方特別留学生は、日本の国策で来日した東南アジアの若者たち。尾崎さんは、数人が川べりで夕涼みする姿を記憶しているという。留学生9人のうち8人が被爆し、2人が犠牲になった。尾崎さんも大やけどで生死の境をさまよった。

 得意な絵で被爆体験を表現し始めたのは70代後半になってから。興南寮を描いたきっかけは、留学生を題材に青木圭子さん(68)=安佐北区=が2019年に制作した絵本を読み「自分で調べて伝えようとする作者の行動力に心を動かされた」からだ。

 南方特別留学生に詳しい広島大職員の平野裕次さん(49)によると、寮の外観の手掛かりは、1944年撮影のモノクロ写真しか確認されていない。外壁の色は他の文献と一致する。尾崎さんは絵を近く原爆資料館へ寄贈する。(山本祐司)

(2021年3月1日朝刊掲載)

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