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米国の日系人に焦点 「尊厳の芸術展」 森田幸夫 憤り昇華 収容所アート

20日から広島巡回 石・貝殻や廃材で自己表現

 米国の日系人が太平洋戦争で強制収容された時代に制作し、万感の思いを凝縮させた「尊厳の芸術展」が、間もなく広島市で開かれる。東京や福島などを巡回し、日本有数の移民送出県にふさわしい掉尾(とうび)を飾る展覧会になるものと確信する。

 芸術展の典拠になったのが、祖父が広島県日浦村(広島市安佐北区)出身のデルフィン・ヒラナスが2005年に著した「ガマンの芸術 1942―1946」である。

 会場で入手可能なガイドブック(収録102点)は、大型カラー写真集「ガマンの芸術」(同204点)の単なる簡易版ではない。広島との関連でいえば、ヒラナスの祖父、佐々木清太郎の木彫り「球体の上の象」は両方に、母キヨコの木綿糸のドイリー(皿などを敷く刺しゅう製品)は写真集だけに、母の里の広島で教育を受け帰米したツトム・ミリキタニの水彩画「トゥリレーク収容所」はガイドブックだけに見られる。

 このように収録作品が取捨選択された結果、不条理な強制収容への屈辱感や憤りといった思いが、展覧会では一層濃く浮き彫りにされた感がある。

 その典型は、小畑千浦の「タンフォラン仮収容所」と、2世のミネ・オークボの「トパーズ収容所」であろう。日系社会で高名な二大画家の動的な白墨の線画は惻々(そくそく)として胸に迫る。

 カリフォルニア州の競馬場跡にできたタンフォラン仮収容所は、現在はショッピングセンターとなり、広場の一角には銅製の競馬像と仮収容所の説明碑がある。最寄りの駅は、サンフランシスコ空港から4~5分の高速地下鉄サンブルノ。サンブルノ市当局が5年間も懇請した「サンブルノ・タンフォラン」とする駅名は、地下鉄を運営する理事会が2002年に却下した。

 オークボ作品は、ユタ州のトパーズ収容所で付けられた番号を取った1946年刊の画集「市民13660号」のひとこまである。対照的に、ワイオミング州「心嶺山(ハートマウンテン)収容所」の山市兼市は収容者番号を拒絶したうえ、手製の木彫りの表札を所内の“自宅”玄関に取り付けた。

 これらの作品は、芸術家としての飽くなき自己表現であり、また、アマチュアの趣味や特技が収容所で逞(たくま)しく華麗に開花した証しなのだ。

 作品の素材も二つに大別できる。小石・砂・貝殻・硬い鉄樹や木のコブなどは、幾つかの収容所内外の天然の素材である。他方、米や野菜用の布袋、各種の布・糸・紙、絵の具、〝住宅〟の金網戸の針金、木工製品やミシンなどの廃材、歯ブラシの柄などは、収容所で、所内の売店や外部の通販で入手した人為的な素材である。

 アリゾナ州ポストン収容所の久留島実雄が描いた貴重な絵画2点から、制作に没頭する男性の姿に注目していただきたい。所内の「ポストン文芸」に寄せられた外川明の言葉を最後に紹介したい。「平凡な身辺の草花でも一本の樹木の枝でも(略)立派な芸術に為し得る」のだ。

 「尊厳の芸術展」は広島市中区の県立美術館で20日から9月1日まで開催。入場無料。

もりた・ゆきお
 1930年生まれ。オハイオ州立大大学院修了。金沢大教授などを務め、日系米国人史の研究を続ける。近著に「アメリカ日系二世の徴兵忌避」。富山市在住。

(2013年7月16日朝刊掲載)

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