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社説・コラム

天風録 『死者の尊厳とは』

 あまりに非道ではないか。クーデターへの抗議デモに参加して銃弾を浴びた女子学生の墓をミャンマー当局があばき、亡きがらを調べたという。だが、頭部の銃創は警察が使う銃弾とは違っていたという調査結果を、うのみにする国民はいないだろう▲事情は全く異なるものの、東日本大震災でも死者の尊厳について考えさせる光景が広がった。火葬場の燃料が足りないため、多くの遺体が土葬を余儀なくされたのだ。通し番号を記した板を墓標にした埋葬地もあった▲その年の5月、仙台市の葬祭会社が行政から「改葬」を頼まれる。1体ずつ掘り起こし、丁寧に清め、新しいひつぎに納め直して火葬場へ。700体を送り出すのに3カ月かかったそうだ▲大切な人を亡くし自分だけ生き残った。そんな遺族の思いに触れ、誠実に遺体と向き合う「おくりびと」の社員たち。毎朝6時に現地へと見送った社長の手記は後に「葬送の記」の題で本に。読むたび、胸がつぶれる▲国民の命を守る治安当局が、国民に銃口を向ける。その時点で既に、軍政ミャンマーは常軌を逸しているのだが…。「3・11」から10年の節目だけになおさら、生と死への向き合い方が気にかかる。

(2021年3月9日朝刊掲載)

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