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社説・コラム

被曝医療の広島大・神谷副学長に聞く 福島通い10年 健康を見守り

根強い住民不安 調査基にケア進める

 広島大の神谷研二副学長(70)=放射線障害医学=は、ここ10年間にわたり毎週、広島と福島を行き来している。被曝(ひばく)医療の専門家として、東京電力福島第1原発事故の発生直後から被災地入り。福島県立医科大(福島市)の副学長を兼任し、事故の健康影響を調べる「県民健康調査」も取り仕切る。福島の現状や調査の成果、課題などを聞いた。(田中美千子)

  ―10年間、どんな思いで通い続けてきましたか。
 ずっと放射線の仕事をしてきただけに役立ちたい思いがある。全速力で走ってきた感じ。復興を支えるのは健康にほかならず、調査を続けてきた。

  ―福島の復興は進んでいますか。
 道半ばだ。他の被災県に比べ、住民の帰還があまり進んでいない。避難を続けている人は昨年7月時点で福島は3万7千人を超えており、岩手の約2千人、宮城の約5千人を上回る。

 福島各地の放射線の空間線量率はもう、海外の主要都市と同水準だ。健康調査では、46万人以上の事故後4カ月間の外部被曝線量を明らかにし、健康リスクが高まるレベルでないことが確認された。それでも住民の不安が根強いのが、帰還が進まない一因だろう。原子力災害は今なお、福島に多大な負荷をかけている。

  ―調査から見えてきたことは何ですか。
 約2年ごとに実施する18歳以下の甲状腺検査では、専門家による検討委員会が既に1、2巡目の検査結果の解析を終えた。「発見されたがんと被曝の関連は認められない」と評価している。ただ結論が出たわけではなく、予断を持たずに解析を続ける必要がある。

 健診では肥満、糖尿病などの生活習慣病の増加が判明。うつ病などで支援が必要な人の割合が全国平均より高いことも分かった。環境が激変し、ストレスがかかっている表れだ。

  ―今後の対策は。
 調査の狙いは結果を健康増進に役立てること。市町村による保健指導につなげたり、健康リスクが高い人に電話を入れて助言したりし、成果も出てきている。住民の不安軽減も大切だ。風評被害をなくすためにも、放射線の知識を正しく伝えていく努力を続ける。

福島県の県民健康調査
 約205万人の全県民が対象。原発事故から4カ月間の行動記録を基に外部被曝線量を推定する「基本調査」に加え、子どもの甲状腺検査や妊産婦調査がある。避難区域に指定された住民を対象にした健康診査と、精神面や生活習慣に与えた影響の調査も続ける。

(2021年2月27日朝刊掲載)

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