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社説・コラム

天風録 『戦争予防ワクチン』

 核戦争を予防するワクチンは核兵器をおいて他にない―。まさか英国は本気でそう考えているのだろうか。保有する核弾頭数の上限を180発から260発へ5割近く増やすと言い出した▲核戦力の増強を続ける中国やロシアに対抗するというのが公式理由だ。しかし、にわかには信じがたい。何しろロシアは6千発、中国は300発以上をそれぞれ保有する。少々増やしても、いたちごっこにすぎないことは、とうに分かっているはず▲単にメンツのなせる業だろうと小欄は推察する。欧州連合から離脱してみたが、国際社会はちっとも評価してくれない。ならばここは、核ミサイルという大国の証しを増やしてみようか―。そんな壮大な勘違いに思えてくる▲ひょっとすると英国からすれば、EUが9年前に受けたノーベル平和賞が足手まといだったのだろうか。あるいは独立国家としての軍拡ならば誰も文句は付けまいと、高をくくったのか▲悲惨な体験はこれで最後に―。ヒロシマ・ナガサキの決意が、その後の核戦争を食い止めてきたと考えれば、被爆国政府の役割はおのずと見えてくる。被爆証言というワクチンを核保有国首脳に接種して回ればいい。何度でも。

(2021年3月18日朝刊掲載)

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