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社説・コラム

EU離脱後 存在感誇示か 広島市立大広島平和研究所 大芝亮所長に聞く

NPT会議に水差す

 英国はなぜ、核弾頭保有数の上限を180発から260発に引き上げると表明したのだろうか。広島市立大広島平和研究所の大芝亮所長(66)に聞いた。(桑島美帆)

 1952年に核兵器保有国になった英国は、核抑止力を維持することで米国との同盟関係を維持してきた。しかし中国が経済的にも軍事的にも台頭し、国際情勢の先行きが不透明な中、核弾頭数を増やすことで核抑止力の信用度を高めようとしているのだろう。

 英国は昨年に欧州連合(EU)から離脱し、国際社会でも欧州でも存在感を示す場が減っている。核兵器は依然として国家間の国力を示す道具に使われる。ジョンソン首相は「われわれは以前より強く、安全に、もっと繁栄する」と強調しており、英国のプレゼンス(存在感)を誇示しようという意図が見える。

 実際には英国との経済的な結びつきが強いにもかかわらず、中国とロシアの脅威を強調している。英国の植民地だった香港で強めている中国の人権侵害を巡り、英国内の反発は強い。そのような理屈をてこに、予算を費やして核戦力を近代化させることに対する世論の合意を得る意図もあるのではないか。

 冷戦後、核保有国の軍縮の流れに沿い、英国も保有する核兵器を削減してきた。2010年には、核弾頭数の上限を225発から180発に減らすとした。

 今年1月に核兵器禁止条約が発効し、米国とロシアが新戦略兵器削減条約(新START)の延長に合意した。そんな中での今回の選択は、明らかに核軍縮の流れに逆行している。国際社会は、冷戦後の新たな局面を迎えたともいえる。

 8月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議が予定されている。すでに難航が予想される議論に、さらに水を差しかねない。他の核保有国が、自国の核増強を正当化する理由として利用する懸念もある。

 英国は反核運動が活発な国。すでに反対運動が起きている。英政府が実際に上限まで核を増強するのか、はっきりしていないが、被爆地と英国の市民が今まで以上に連携して声を上げていくことが大切だ。

おおしば・りょう
 一橋大法学部を卒業後、米国イェール大で博士号取得(政治学)。上智大法学部助教授、一橋大理事・副学長、青山学院大国際センター長などを経て、2019年4月から現職。専門は国際関係論。兵庫県芦屋市出身。

(2021年3月18日朝刊掲載)

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