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社説・コラム

天風録 『伝説のアニメーター』

 戦時中、山口市に住む少年は駅や機関庫で好きな蒸気機関車を描いていたという。しかし終戦の2カ月後に進駐軍がやってくると、米軍車両に関心は移った。子どもたちがチョコレートを米兵にねだる中、スケッチに精を出す▲後に伝説のアニメーターとなる大塚康生(やすお)さん。観察眼と描写力は鋭く、車体のマークやナンバーも描き込む。軍に連行され、スケッチ帳を没収されもするが、兵士は人物像を喜んだ。仲良くなり50年以上文通した人も▲県庁勤務から政治漫画家を志して上京。やがてアニメの世界に入り、作画監督に。「ムーミン」「未来少年コナン」などのテレビアニメに携わる。「ルパン三世」では一つの挑戦を試みる。車や小道具もリアルに描き、大人のアニメに―。軍用車両スケッチの経験が生きた▲アニメ界の草分け的な存在ながら、柔和な性格で後輩に慕われた。宮崎駿さんは「仕事のおもしろさを教えてくれた」。高畑勲さんは「仕事だけでなく人生の兄貴分」とまで語っている▲好きなものをたくさん描く、下手でも動かしてみる、現状を批判的に見る―。後進にはそう語り掛けた。訃報が届いたが、言葉と絵は日本のアニメに息づいていくだろう。

(2021年3月19日朝刊掲載)

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