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連載・特集

[核禁条約 私の国では] 発効2ヵ月 市民が動く

 核兵器禁止条約が発効して、22日で2カ月がたった。批准国は現在54。さらに増やそうと、各国の市民が自国の政府や議会に働き掛けたり、世論を喚起すべく努力を傾けたりしている。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))」のキャンペーナーと呼ばれる活動家たちに、現状や条約への思いを聞く。初回は「核依存国」のカナダ、核保有国フランスと、条約にすでに加盟する南太平洋の島国フィジーから。(金崎由美、桑島美帆、新山京子)

抑止論から脱却促す

カナダ エリン・ハントさん(36)

 1999年に発効した対人地雷禁止条約は別名「オタワ条約」で、条約交渉の過程は「オタワ・プロセス」。カナダの首都の名で呼ばれる。それだけ非人道兵器の軍縮に熱心な国だと思われるかもしれないが、核兵器となれば別。北大西洋条約機構(NATO)の一員であり、安全保障政策は核兵器を保有する隣の米国と強く結びついている。

 核兵器が自分たちを守る、という思考停止から脱するよう、政治家に個別に働き掛けている。「核兵器禁止条約に即時署名を」ではなく「まず条約について学び、討論を」とあえて訴えている。

 ICANが進める「パーラメンタリー・プレッジ(議員誓約)」への参加を求めている。議員が核兵器禁止条約への賛同を誓うもので、現在下院は定数338人中31人。(選挙でなく任命制の)上院では91人中21人だ。もっと増やす。

 トルドー政権はかたくなだ。トロント在住の被爆者サーロー節子さん(89)は、ICANを代表してノーベル平和賞授賞式に出た2017年から面会を求めているが、首相は拒み続けている。面前で正論を言われたくないのだろう。

 ノーベル平和賞を受賞した「地雷禁止国際キャンペーン」の構成団体「マインズ・アクション・カナダ(MAC)」の一員として、対人地雷とクラスター弾の禁止条約の履行監視などの活動をしてきた。

 MACは当初、市民と有志国の主導で二つの禁止条約を実現させた先例をICANなどに伝える立場だった。核兵器問題へと活動分野を広げることを決め、私も13年からICANに加わった。核兵器禁止条約の交渉会議などで、懸命にロビー活動した。機中泊や、長距離バスの車中泊などで宿泊代を限界まで削り、オタワと国連のある米ニューヨーク、スイス・ジュネーブの間を飛び回った。

 現在、人工知能(AI)で敵を自動的に殺傷する「殺人ロボット兵器」の規制などと合わせ計五つの課題に並行して取り組んでいる。市民を無差別に殺す、あらゆる非人道兵器の被害をなくしたい。

議員・都市の賛同募る

フランス ジャンマリー・コリンさん(45)

 核保有への支持が根強いフランスでも、核兵器禁止条約をきっかけに、核軍縮への関心が高まっていると感じる。「なぜ核を保有しているのか」「大量破壊兵器の製造にどれだけ費用をかけているのか」と話題に上るようになった。

 フランスは1960年に植民地だったアルジェリアのサハラ砂漠で核実験を始めた。17回実施した後、南太平洋の仏領ポリネシアでも66年から96年まで193回行った。軍人や労働者ら15万人が放射能汚染にさらされたと言われる。現地住民を含めればさらに増える。放射性廃棄物も地中に埋められたままだ。

 しかし政府は情報を隠してきた。被害を認めれば核保有の正当性が揺らぐからだ。2010年に「核実験被害者補償法」が施行されたものの506人しか被害者として認定されていない。アルジェリアでは1人だ。

 核開発を始めたドゴール政権時から、核兵器でフランスの自主性と国際社会での存在感を高める、という政策は変わらない。現在も約300の核弾頭を保有する。昨年2月にマクロン大統領は演説で、核抑止力の必要性を説き、欧州諸国にフランスの核戦略との関係強化を呼び掛けた。核兵器を使えば、人類社会が破壊される。ナンセンスだ。

 南東部の都市リヨンで第1次、第2次世界大戦の犠牲者を弔う軍人墓地の十字架を見ながら育った。核軍縮問題に携わるようになった根底に、あの光景がある。フランスが近く条約に参加することはなくても、できることはある。ICANの「議員誓約」に国会議員26人が署名した。都市の賛同も首都パリなど41に達しており、今月中に50を目指す。

未加盟国宛てに手紙

フィジー バネッサ・グリフェンさん(65)

 私の古里フィジーを含む太平洋諸国では、国連加盟12カ国・地域のうち9カ国が核兵器禁止条約に参加している。条約発効への貢献は、大きな誇りだ。

 私たちが核と向き合ってきた歴史は長い。米国が67回も核実験をしたマーシャル諸島、フランスの核実験場だった仏領ポリネシア…。フィジーでは、50年代に英国の核実験に大勢の兵士が動員され被曝(ひばく)した。

 島国での反核運動は、大気圏核実験が終了して以降、現在まで続いている。多くの国・地域は南太平洋非核地帯(ラロトンガ)条約の加盟国でもある。

 しかし核兵器禁止条約が国連で採択されるまで、市民の関心は低かった。核兵器といえば健康問題であり「兵器を禁止しよう」と聞いても半信半疑。学生の頃、海や生物が核実験で汚染されて人々の健康を害していると知り、反核運動を始めた私もそうだった。2013年にICANと出合って変わった。放射能汚染を自ら経験した私たちこそ、非人道兵器の禁止を世界に訴えよう、と強調してきた。

 12月にある禁止条約の締約国会議は、太平洋の小さな島々が主導し、存在感を高める機会だ。昨年9月、フィジーやマーシャル諸島の学生たちが域内の未加盟国の大臣に行動を促す手紙を送った。廃絶への思いを次世代につないでいく。

議員を後押し一段と 日本

署名・ネット…試み多様

 日本では、日本被団協などでつくる「ヒバクシャ国際署名」連絡会が昨年末まで4年8カ月かけて1370万2345筆の署名を集めた。核兵器禁止条約への参加を求める声は一段と強まっている。

 広島の被爆者7団体は、22日から日本政府に条約の署名・批准を求める署名活動を始める。日本原水協(東京)は、昨年10月に新たな署名活動をスタートさせた。その日本原水協によると、広島県内の17市町を含む全国531自治体の議会が、政府に条約参加を求める意見書を可決した。日本被団協(同)や広島と長崎の市民グループでつくる「核兵器廃絶日本NGO連絡会」は先月、与野党の国会議員や外務省の担当者とオンラインで意見交換し、署名、批准を求めた。

 高校生や大学生も、議員への働きかけをさまざまに試みている。

 NGOピースボートの川崎哲(あきら)共同代表たちが携わる「議員ウォッチ」は、メンバー50人の3割を10~20代が占める。国会議員に条約への姿勢を問い、回答をウェブ上で公開。27%に当たる192人が賛同している。条約発効が決まった昨年10月には「GoTo ヒジュン!キャンペーン~日本も入ろう核兵器禁止条約」も始動した。各界の著名人に条約賛同を募っている。

 両方の運営に関わる慶応大2年の高橋悠太さん(20)=横浜市=は、国会議員の発言内容が条約発効前後から変わってきたと感じている。「政治に若者の声を届け、活性化したい」

「署名」「批准」 国内手続きは

閣議決定と国会承認が必要

 日本が核兵器禁止条約に参加するには、「署名」と「批准」という国内手続きが必要だ。いずれも内閣(行政)が担う。どんなプロセスになるのだろうか。

 署名は、条約の趣旨や内容についての同意を表明し、国連に届け出る最初の手続きだ。閣議決定を経るため、内閣の総意という位置付けだが、署名する権限を持つ閣僚は首相と外相。だから2人の意思が特に問われる。

 憲法73条は、条約の締結に「国会の承認」が必要だと定める。三権分立のルールに基づき行政を国民の代表がチェックする仕組みで、批准の承認は衆院過半数の賛成が条件となる。衆参で議決が一致しなかったり、参院に回されてから30日以内に議決がされなかったりしても、憲法61条の「衆院の優越」が適用される。

 そして内閣は、批准書を「寄託者」に提出する。核兵器禁止条約の場合は国連事務総長だ。晴れて条約の「締約国」となる。

 「条約に加わるには国会審議を重ねることが不可欠。その当事者たちを選挙で選ぶのは有権者」と大阪大の黒沢満名誉教授(軍縮国際法)は指摘する。議会と政治家を動かす―。米国の「核の傘」に依存する安全保障政策を持つ日本はどうしたら条約に入れるのか、などの具体的な議論は始まっていない。

(2021年3月22日朝刊掲載)

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