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社説・コラム

条約支持 日本世論の75% 米研究者が調査 後ろ向きな政府とずれ

 米ハーバード大のスティーブン・ハルツォグ研究員(34)たちが、核兵器禁止条約に関して日本で世論調査を実施し、長崎大発行の国際学術雑誌「平和と核軍縮」に論文を発表した。約75%が「日本は条約に加わるべきだ」と回答。条約に反対する政府とのずれが浮き彫りになった。調査の意義を聞いた。(桑島美帆)

  ―共同研究「日本の世論、政治的説得、核兵器禁止条約」は何が狙いでしたか。
 共同通信やNHKなどが世論調査を実施し、日本人の多くは条約を支持しているとの結果が出ている。ただ同時に「米国の核の傘が弱体化する」「核拡散防止条約(NPT)体制が骨抜きになる」といった批判的な論調にも接している。国民はどう感じているのか関心を持った。

  ―調査方法と結果は。
 調査会社に委託し、無作為抽出した1333人を支持政党や学歴、年収が偏らないよう5グループに分けた。うち4グループには、回答の前に条約に批判的な文章を読んでもらった。条約には重大な問題があり、米国が条約に加盟して核を放棄すれば中国や北朝鮮の脅威から守られなくなる、といった内容だ。

 驚いたのは、なおもほとんどの人が「条約に加入すべきだ」と回答したこと。全体の約75%に上り、反対は17・7%。支持政党や年収などによる違いもなかった。日本の世論が、根本から条約を支持していることを示している。

  ―積極的な条約支持とまで言えるのでしょうか。
 被爆者の証言や、平和運動の蓄積が国内外に影響を及ぼしてきた。彼らの核のない世界への信念が、世論の条約支持につながっている。米国でも同じ手法で調査したが、回答前に批判的な情報を得たグループの条約への賛成率は、大幅に低かった。

 今回の調査で「回答したくない」とした日本人の割合は6~7%にとどまった。他のテーマだと通常は30~35%が回答しない。他国と比べれば核問題への関心は高いだろう。

  ―日本政府はどう受け止めるべきでしょうか。
 政府が国民に条約反対を刷り込むことは不可能だ。反核意識は揺るがない。条約が発効した今、政府が条約参加を求める世論から逃れることはできない。

 ノックス大卒。ジョージタウン大とイェール大で安全保障や政治学の修士号を取得後、米エネルギー省などに勤務した。マサチューセッツ州在住。

(2021年3月22日朝刊掲載)

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