×

社説・コラム

社説 原発テロ対策「最悪」 東電いまだ反省なしか

 地元の新潟県で不信感を高めただけではない。原発を任せる資格があるのかさえ疑わせる深刻な問題ではないか。

 東京電力の柏崎刈羽原発のテロ防止対策が穴だらけだった。外部からの侵入を検知する設備が15カ所で故障していた上、うち10カ所は代替措置が十分ではなかった。原子力規制委員会によると、昨年3月以降、テロなど不正な侵入を見過ごしていた可能性があったという。信じられないほど、ずさんである。

 規制委は「組織的な管理機能が低下」と断言した。ならばさらに踏み込んで、再稼働の前提となる保安規定の審査やり直しも含めた再点検が必要だろう。

 原発は、核兵器の材料にもなる放射性物質を大量に扱う。それだけに、運転時に攻撃されることも含めた核テロへの備えが不可欠だ。不正侵入を防ぐフェンスや監視カメラの設置、立ち入る際の厳重な身元確認などである。「核物質防護規定」で、義務付けられている。

 しかし柏崎刈羽原発では、テロ対策の不備が「極めて深刻」だった。長期間、防護措置の有効性を適切に把握せず「重大な事態になり得る状況にあった」と規制委は指摘する。4段階ある評価のうち、「最悪」と判断されたのも当然である。

 東電は、この判断を重く受け止めねばならない。第三者による徹底調査で原因を明らかにして、責任者を厳正に処分すべきだ。その上で組織見直しに踏み切ることも欠かせない。そうしてこそ、再発防止につながるはずだ。それを避けるようでは、信頼回復は到底望めまい。

 不備の発覚は、東電の協力企業が今年1月に設備の1カ所を誤って損傷させたことがきっかけだった。全容の深刻さは、規制委が昨年春に導入した抜き打ち検査、特に初めてという日曜夜の検査が奏功して判明したという。こうした経緯から分かるのは、隠蔽(いんぺい)体質や安全軽視といった問題の根深さである。

 東電は、原子力災害で国内最悪となった福島第1原発事故から一体、何を学んだのか。

 今、東電は柏崎刈羽原発の再稼働に力を注いでいる。福島原発の廃炉に必要な資金確保のためという。にもかかわらず安全面では不手際が続く。昨年秋、社員が他人のIDカードで中央制御室に不正侵入していた。明らかな防護規定違反である。「完了」としていた安全対策工事は4カ所でまだ終わっていなかった。あきれるほかない。

 危険な放射性物質を扱う自覚の乏しさを示しているようだ。10年たった今も、事故の反省を欠いている証しだろう。そもそも当時の経営陣が大津波への警告を軽んじて、現場から上がった防止策を先送りしなければ、これほど深刻な事故にはなっていまい。そして今や、安全を軽んじる姿勢は、現場をもむしばんでいるのではないか。

 東電だけではない。関西電力では「原発マネー還流」疑惑などの不祥事が相次いだ。トップ2社の責任感の乏しさが、他の電力会社にも広がってはいないか。疑問が拭えない。

 規制委の更田豊志委員長は今回の不備について「東電特有の事案と決めつけるのは危険だ」と分析している。他の電力会社も含めて、きちんとルールを守っているか、厳しい目でチェックしなければならない。

(2021年3月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ