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社説・コラム

社説 ミャンマー情勢悪化 「不服従」に銃 許されぬ

 由々しき事態である。ミャンマー情勢が悪化の一途をたどっている。「国軍記念日」であるおととい、最大都市のヤンゴンや第2の都市マンダレーなどで抗議デモに参加した市民を治安部隊が銃撃するなどし、100人以上が殺害された。

 2月1日に起きた軍事クーデター以降、1日の死者数としては過去最悪だという。国軍は抗議デモへの弾圧を強め、市民の犠牲者は増え続けている。現地メディアによれば、これまでに400人以上が、治安部隊の銃撃などで亡くなった。

 デモ弾圧について国軍はこれまで「最小限の実力行使」と主張してきた。しかし連日犠牲者が増える現状を見て、誰が信じよう。職務を放棄するなど、非暴力の方法で不服従を貫く市民に、武力で対峙(たいじ)する暴挙は断じて許されない。

 さらに深刻なのは、子どもが多数犠牲になっていることだ。ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会」の集計によれば国軍記念日の前日夜までに7歳の女児を含む20人以上の子どもが亡くなっている。27日に殺害された中には5歳児も含まれていたという。幼子に銃口を向けるなど、どんな正当化もできまい。

 27日の弾圧を受け、国連のグテレス事務総長は「最も強い言葉で非難する」との声明を発表した。国際社会が結束して「断固とした対応」を取ることが必要だと訴えた。日本の防衛省制服組トップの山崎幸二統合幕僚長のほか、米国など11カ国の軍トップも共同声明を出し、「非武装の市民に軍事力を行使したことを非難する」と暴力停止を呼び掛けた。軍の任務は国民を傷つけることではないとの訴えは当然のことだろう。

 国際社会はクーデター以降、ミャンマー国軍に対し、非難を表明し続けてきた。米英は、クーデター指導者らと関係する国軍系企業などに対し、経済制裁に動いた。韓国は政府開発援助(ODA)見直しを発表した。

 一方、国軍と独自のパイプを持ち、打開策に期待が寄せられる日本はODA新規案件の見送りにとどまっている。日本はミャンマーにとって最大の援助国であり、影響を最小限にとどめたい考えなのだろう。中国がミャンマーへの援助を加速させる中、制裁ではなく、国軍との対話を通じ、民主化を後押ししたい考えも理解はできる。

 しかし現在の深刻な事態を見れば、日本の外交が疑問視されても仕方あるまい。きのう茂木敏充外相は「強く非難する」と談話を発表したものの、もう一歩、踏み込むべきではないか。

 首都ネピドーで行われた27日の式典に、外国要人として出席したのは国軍が武器調達を依存するロシアや中国をはじめ、8カ国の代表のみだった。例年は20~30カ国の代表が出席しており、ミャンマーが国際的に孤立していることがうかがえる。ここでさらに国際的な包囲網を強めるべきだろう。

 言うまでもなく、昨年総選挙で圧勝したのはアウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)である。選挙で示された民意が武力で覆されただけでなく、無抵抗の市民が銃弾を浴び、血を流している。

 国際社会は事態から目を背けず、結束して打開の道を探らねばならない。日本も毅然(きぜん)とした態度で臨むべきだ。

(2021年3月29日朝刊掲載)

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