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社説・コラム

社説 高校の新科目 地域と世界 結ぶために

 2022年度から主に高校1年生が使う教科書の検定結果が公表された。「主体的、対話的で深い学び」を掲げる新学習指導要領に対応した初の検定だ。「公共」「歴史総合」など新たな必修科目が登場し、暗記型から探究型へと学びの在り方が変わるのは時代の要請だろう。

 新科目の一つの「公共」を見よう。2016年に選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、来る22年には成人年齢も18歳に引き下げられる。このため、主権者として高校生を強く意識したのが「公共」だといえよう。

 現在でも小中高校では発達段階に応じて、憲法や選挙、政治参加に関する教育は行われている。しかしながら、多くは知識の丸暗記だったり、現実の政治を扱うことに消極的だったりしているのではなかろうか。

 教育の政治的中立性や生徒の政治的活動への規制を求めてきた文部科学省の通知も、既に緩和されている。これからは模擬選挙や模擬議会などを通じて多様な意見を出し合い、理解を深める実践が求められよう。

 政治改革の一つである小選挙区選挙の実施からことしで25年になるものの、票をカネで買う金権政治の根っこはいまだに断ち切れていない。政治を自分ごととして考えるよう学校現場が生徒の意識を高めていけば、政治改革の実現に近づくだろう。「公共」が社会に果たす役割は重いと言わざるを得ない。

 世界史と日本史を融合させ、近現代にウエートを置く「歴史総合」も注目されていい。

 先史・古代から授業を始めると、18世紀以降の近現代は駆け足になりがちだ。日本史と切り離され、暗記することの多い世界史は生徒の学ぶ意欲をそぐ。06年に明るみに出た世界史未履修問題の遠因ともなった。

 山口県のある高校教諭は、王国時代のアフガニスタンで戦前農業指導をした同県人の足跡を追うことでイスラム世界を学ぶ取り組みを試みた。それを機に「地域から考える世界史」と名付けたプロジェクトを進めている。一国の枠組みを超えて地域から世界史を眺める。それによって見慣れた地域の良さ、面白さも再発見できるという。

 今なら新型コロナウイルスの感染拡大を教材に、100年前のスペイン風邪の歴史を学び、背景となった第1次世界大戦についての学びを、生徒は深めることができよう。過去と現在を結び付ける思考力をいかにして養うか、今後は問われる。

 広島・長崎への原爆投下も、新たな教え方が求められよう。その後の核開発による世界各地のヒバクシャの存在を知り、「核時代の始まり」と捉えてもらう。さらに核兵器禁止条約が発効した現在までを一つのものとして学んでもらいたい。

 とはいえ、教える主体は教科書ではなく教員である。新科目によっては専門の教員が足りないほか、「働き方改革」も十分ではない。大学入試センター試験の後継の大学入学共通テストも、細かい知識を問う従来型の出題が消えたわけではない。暗記中心の学習も捨てきれないはずで、学校現場は理念と現実がせめぎ合うことになろう。

 新たな教科書を使う授業の始まりまで、あと1年しかない。現場の創意や意欲を国や自治体、専門家が支援していく態勢を整えていくべきだ。

(2021年4月7日朝刊掲載)

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