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社説・コラム

社説 米イラン協議 核合意「再建」粘り強く

 米国のイラン核合意復帰へ向けた協議が動き始めた。トランプ前政権が離脱して以来、約3年ぶりだ。欧州連合(EU)の仲介でイラン側と異例の間接協議が続けられる。直接の対話には至っていないが、両国には前向きな姿勢がうかがえる。この機を逃してはならない。

 核兵器禁止条約が1月に発効したにもかかわらず、核の脅威は高まっている。トランプ前政権による小型核開発をはじめ、ロシアや中国も増強の動きを見せる。北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)を脱退して核開発を継続するほか、英国も核弾頭保有数の上限を引き上げる方針を決めた。

 そのような状況下、イラン核合意に米国が復帰し、「再建」されれば、その意義は大きい。経済制裁解除の規模などを巡って両国には隔たりがあるが、粘り強い協議で何としても妥協点を見いだしてもらいたい。

 核合意は、イランが核開発を制限する見返りに、米国や欧州各国が経済制裁を解除するという内容。2015年、米英やロシア、中国、フランス、ドイツの6カ国とイランが合意した。

 ところが18年、トランプ前政権が一方的に合意を離脱。経済制裁を再発動していた。イランは反発し、19年にウラン濃縮を再開した。ことし1月、ウラン濃縮度を兵器級に近づく20%に高めたほか、翌月には国際原子力機関(IAEA)に抜き打ち査察などの権限を認めた「追加議定書」履行も停止した。

 風向きを変えたのが、バイデン政権である。トランプ前政権の対イラン政策を翻し、核合意復帰を目指して対話を呼び掛けていた。核兵器の削減や不拡散へ先頭に立つのは、核大国として当然だ。

 とはいえ、今のところ両者の隔たりは大きい。

 米国はイランにウラン濃縮活動の制限や査察受け入れを求める。一方、イランは制裁の即時かつ一括解除が先決と主張。長く難しい協議になりそうだ。

 イランでは、保守穏健派のロウハニ大統領が制裁解除による経済再建を模索している。だが国内には対米強硬派が勢いを増しており、段階的な制裁解除といった妥協はしにくい。大統領の任期が迫るロウハニ師は困難なかじ取りを迫られている。

 そこへ、水を差す動きが起きた。イランのウラン濃縮施設で大規模爆発があり電源が破壊された。イランは敵対するイスラエルによる攻撃とみて「大惨事につながりかねない人道犯罪」と非難。報復する考えを表明した。対立が核合意協議に影を落とす恐れもあり、懸念される。

 そんな中、イスラエルを訪問中だったオースティン米国防長官はネタニヤフ首相と会談し、イランに核兵器を保有させない方針で一致した。

 イランの脅威を激しく言い募るネタニヤフ氏に対し、国防長官はイランを非難しなかったという。核合意の復帰へイランに配慮したものとみられ、米国の本気度が見て取れる。

 EUなどの働き掛けで進む米イランの間接協議。唯一の被爆国で、イランと親密な国としても日本の存在感を示すべきだ。加藤勝信官房長官は「中東の安定化へ外交努力を続ける」とした。政府が繰り返し述べてきた核保有国と非保有国の橋渡し役を、今こそ担う時だ。

(2021年4月14日朝刊掲載)

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