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核問題好転の兆し見えず 20年「ひろしまレポート」36ヵ国採点 日本含む22ヵ国評価下げ

 広島県は14日、核兵器を巡る36カ国の2020年の取り組みを3分野で採点した「ひろしまレポート」を公表した。核軍縮の分野では、日本を含む22カ国が前年と比べて評価を下げた。核兵器保有国は今年1月に発効した核兵器禁止条約への参加に後ろ向きで、新型コロナウイルスの影響で各国が核軍縮に取り組みにくかったなどとして「核問題を巡る状況は好転の兆しは見えない」と分析した。

 取りまとめは、県の委託を受けたシンクタンク日本国際問題研究所(東京)が担った。36カ国の内訳は、核拡散防止条約(NPT)で核兵器保有を認められた5大国、事実上保有する4カ国、非保有国のうちの27カ国となる。研究所が20年の動向を基に、核軍縮▽核不拡散▽核物質の安全管理―の3分野、計65項目で採点。満点に対する割合を示す「評点率」で評価した。

 核軍縮の採点は32項目。5大国では、核兵器使用に踏み切る条件などの基本政策を発表したロシアが最も低い2・7%(前年比1・3ポイント減)だった。最も高いのは国連総会で日本提出の核兵器廃絶決議案に賛成した英国で、26・7%(0・6ポイント減)だった。

 前年と比べて上がったのは米国だけで、2・2ポイント増の14・0%。ただ、核兵器の近代化を進めており、公開情報が減少傾向にある点などを懸念材料に挙げた。

 事実上の保有4カ国で最低は、北朝鮮のマイナス8・2%だった。軍事パレードに新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を登場させたなどと言及した。

 非保有国は、27カ国中15カ国で下がった。日本は、被爆国でありながら米国の核の傘に頼り続けており、核兵器禁止条約に後ろ向きとして、2・4ポイントダウンの51・2%となった。

 上がったのは6カ国。ニュージーランドは、国連総会などさまざまな場で核軍縮の推進を積極的に提唱しているとされた。横ばいは6カ国。オーストリアは禁止条約の制定を主導した点などが評価されて76・2%となり、前年に続いて評点率でトップだった。

 核不拡散では、ウラン濃縮を進めていると主張しているイランなど6カ国が1・7~4・9ポイント下げた。核物質の安全管理では、英国やフランス、米国、パキスタンなど24カ国が改善し、12カ国は横ばいだった。

 レポートは概要で、新型コロナの影響で4~5月に予定されていたNPT再検討会議が延期されたことなどに言及。各国がコロナ対策に追われ、核軍縮への関心は後退したと指摘した。

 県庁で記者会見した湯崎英彦知事は「核保有国は、非常に厳しい評価をしっかりと受け止めてほしい」と強調した。米国の核の傘に依存し続けている日本政府には「核兵器のない社会に向け、世界でリーダーシップを発揮してほしい」と求めた。(小林可奈)

コロナ影響 議論停滞

 広島県が14日に公表した2020年の「ひろしまレポート」は、5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議の延期に代表されるように、新型コロナウイルス感染拡大が核軍縮の議論停滞を招いたと指摘した。今年1月に発効した核兵器禁止条約もすぐには光明とはなり得ず、「総じて見れば状況は停滞・悪化のスパイラルに陥っている」との厳しい評価となった。

 インターネットを通じて記者会見した阿部信泰・元国連事務次長(軍縮問題担当)は「世界の関心は新型コロナに向かい、核問題は舞台の後方に押しやられた」と分析した。

 核兵器の近代化や核物質を防護・保全する核セキュリティーの緩みなどを挙げて「圧倒的に不安材料が多い」と危惧した。米国で、核軍縮に前向きとされるバイデン大統領が就任したのは、明るい材料とした。

 レポートは核兵器禁止条約について、核保有国やその同盟国が署名しない方針を明言し、条約を推進する非保有国との亀裂が深まっていると指摘した。

 阿部元事務次長は「今すぐに核兵器がなくならなくても、条約に批准する国が増えれば、保有や使用はできないとの規範意識が高まる」とみて、長期的な視点から禁止条約に期待した。(小林可奈)

(2021年4月15日朝刊掲載)

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