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社説・コラム

社説 日米首脳会談 緊張解く対中戦略描け

 菅義偉首相とバイデン米大統領はお互いの就任後初めて、対面で会談を行った。共同声明には台湾情勢を明記し、「平和と安定の重要性」を強調した。

 日米の首脳が共同文書で台湾に言及したのは、冷戦期の1969年、当時の佐藤栄作首相とニクソン大統領の会談以来で52年ぶりのことだ。日中国交正常化以降では初めてであり、中国へのけん制が鮮明となった会談といえよう。

 台湾海峡では、中国が防空識別圏に繰り返し軍用機を進入させるなど覇権的な動きを強め、緊張が高まっている。譲歩できぬ「核心的利益」と台湾を位置付けているからである。今回の共同声明にも早速、「強烈な不満と断固とした反対を表明する」との談話を発表した。

 バイデン大統領が対面会談する最初の外国首脳に菅首相を選んだのは、対中政策で日本の重みが増した証しだろう。

 菅首相も得たりとばかり、「日米同盟の強固な絆を確認したい」と日本の防衛力強化への決意を示した。沖縄県の尖閣諸島周辺で中国の威圧的な振る舞いが繰り返される中、日米の「強固な絆」が支えになるという考えかもしれない。

 しかし有事の際には、沖縄をはじめとする日本列島が米国の軍事拠点となることを忘れてはなるまい。安全保障関連法に基づき、日本の平和と安全が脅かされる「重要影響事態」、さらに危機の度合いが高まる「存立危機事態」と認定すれば、集団的自衛権を行使するシナリオさえ現実味を帯びる。

 事態のエスカレートを前提とする備えだけでは危うい。緊張を解く仕組みの構築こそ、急ぐべきではないか。

 バイデン氏は中国を「唯一の競争相手」と呼び、米中対立を「21世紀の民主主義と専制主義の闘い」と位置付けている。共同声明では「核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた(略)日本の防衛に対する揺るぎない支持」まで表明した。

 防衛装備品の購入を求めてきたトランプ前大統領の経済偏重とは異なる。「買い物」以外の応分の負担を日本側に求める圧力でも今回、あったのだろうか。菅首相は日本の防衛力強化や米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設推進を約束してみせた。

 ここは、立ち止まって考えるべきだろう。同盟関係の重視とは何も、対米追随するということではあるまい。むしろ被爆国として、核抑止や武力によらない戦略を描き、米国に働き掛けていく必要がある。

 緊張緩和には、力ずくではない外交が欠かせない。中国とは地理的に近く、対中貿易など経済関係を重視する日本側の対応が問われる。日中で基調としてきた「戦略的互恵関係」も忘れてはなるまい。

 今求められているのは「人間の安全保障」ではないか。経済分野で、サプライチェーン(部品の調達・供給網)の再構築に向け、日米が協力するのもその一環だろう。

 感染症や気候変動、人権問題など会談で話し合われた課題にはどれも、国境を超えた対話と協力が求められる。

 「強固な絆」が望まれるのは日米間に限らない。緊張緩和に向け、日本独自の外交戦略に知恵を絞らねばならない。

(2021年4月18日朝刊掲載)

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