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塩と折り鶴 命の尊厳 瀬戸内市牛窓で2人展

 塩を用いたインスタレーションで知られる尾道市出身の美術家山本基さんと、折り鶴をテーマに創作する小野川直樹さんの個展が、瀬戸内市牛窓町の瀬戸内市立美術館で同時開催されている。繊細な表現に、命の尊厳を感じさせる趣が共通する。

 晩春の季語である「さくらしべふる」と題した山本さんの作品は、床一面に、塩で造形した無数の桜の花びらが散らばる。はかなさを強く印象付ける一方で、海から来て海に帰る塩という素材が、永遠も想起させる。最終日、作品に使った塩を牛窓の海にまくプロジェクトも予定する。

 金沢市在住で、病気で早世した妹と妻への思いを創作に込める山本さん。「塩は命に欠かせず、死を巡る慣習にも関わる」と素材に選んでいる。塩の花びらは、散るからこその命の尊さと輝きを、情感深く象徴する。

 小野川さんの作品はいずれも、幅1センチにも満たない極小の折り鶴が、枝状の支持体に鈴なりに連なる。樹木や臓器の血管も連想させ、神秘的な生命感を宿す。

 出身地の東京を拠点とする小野川さんは、「平和」の象徴とされる折り鶴に、どこか惰性のようなものを感じてきたという。変化をもたらしたのが、東日本大震災の被災地で目にした光景だった。津波に流された校舎の、がれきの脇に供えられた千羽鶴。行き場のない気持ちを託した「祈り」が胸に染み、その居場所をつくる思いを創作に重ねる。

 5月5日まで(4月26、30日は休館)。一般500円など。(道面雅量)

(2021年4月20日朝刊掲載)

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