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社説・コラム

社説 ASEANとミャンマー 特使派遣し 沈静化急げ

 ミャンマーで軍事クーデターが発生してから3カ月たった。国軍による市民への武力弾圧はやまず、少数民族の武装勢力との戦闘も激化している。

 混迷を深める情勢の打開を目指し、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、ようやく外交努力に本腰を入れ始めた。

 先月下旬にインドネシアで臨時首脳会議を開き、暴力の即時停止やASEANからの特使派遣、平和解決に向けた対話開始など5項目の合意を盛り込んだ議長声明をまとめた。

 ミャンマーを含む10カ国が加わるASEANは内政不干渉を原則とする。互いの政治体制を認め、加盟国の人権・民主化問題を取り上げることに消極的だった。だが今回は一歩踏み込んだ対応を打ち出したと言える。

 国連安全保障理事会の取り組みや欧米各国の経済制裁は奏功していない。国際社会が手をこまぬく中、ASEANが果たす役割への期待は大きい。事態を収拾させるには対話の開始が不可欠で、とりわけ特使派遣を急ぐべきだ。

 首脳会議には、ミャンマー国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官が参加した。クーデター後初の外国訪問となる首脳会議の場を利用し、国内秩序の掌握を国内外に印象付ける思惑があったのだろう。

 一方で、軟禁中のアウン・サン・スー・チー氏を支持する民主派が発足させた「挙国一致政府」が求めていた参加は実現しなかった。

 議長声明では、ASEAN特使がミャンマーを訪問して全ての当事者と面会し、対話を仲介するとしている。挙国一致政府はもちろん、少数民族などの主張も受け止める必要がある。

 ただ、声明の草案にあった「政治犯の解放」は、国軍側の抵抗で削除されたという。スー・チー氏の処遇にも触れておらず、十分とは言えない。政治犯の解放は、実効性ある対話の環境づくりに欠かせない。

 国内外の報道関係者が多く拘束されているのも看過できない。抗議デモなどを取材したフリージャーナリストの北角裕樹さんが逮捕、訴追されている。早期解放の実現に向け、日本政府もあらゆる手だてを尽くさなければならない。

 そのためにも特使派遣の具体化を急ぐ必要があるが、働き掛けは一筋縄でいきそうにない。

 首脳会議での合意について、ミャンマー国軍側は「国内が安定した後に慎重に検討する」と後付けの声明を出し、その後も流血の弾圧を続けている。

 これまでに760人が国軍に殺害され、3500人近くが拘束中だ。それでも抵抗する市民の意思は固い。不服従運動や少数民族との連帯を強め、内戦の様相が強まる恐れもはらむ。

 おとといの国連安保理の理事会で、ミャンマー担当の事務総長特使は、このまま国軍の武力弾圧の下で民主化運動が継続すれば、行政の機能が停止するリスクを指摘。ミャンマー国内の避難民が新たに推定2万人発生し、国外に逃れた難民も1万人に上る恐れがあるとした。

 ミャンマー情勢が泥沼化すれば、その影響は東南アジア全域に及ぶだろう。地域の不安定化を防ぐ責任がASEANにはある。国軍にパイプがあると主張する日本政府もASEANの行動を後押しすべきだ。

(2021年5月2日朝刊掲載)

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