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[核禁条約 私の国では] オーストラリア ジェム・ロムルドさん(34)

脱「核の傘」へ 野党に変化も

 オーストラリアは、2007年に核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))が結成された地だ。核兵器禁止条約が発効した1月22日、市民は心から喜んだ。しかし政府はこの条約に反対している。米国と安全保障条約を結んで同盟関係にあり、日本や北大西洋条約機構(NATO)の加盟国と同様、米国の「核の傘」への依存を打ち出しているからだ。

 政府は「禁止条約への参加は、米国の同盟国としての義務と矛盾する」としている。実際には、安全保障条約や両国間の合意に「核抑止力でオーストラリアを守る」という約束はない。政治的な意思次第で、同盟関係を放棄せずに禁止条約に署名・批准することは可能だ。だからこそ、政府や議員に圧力をかけ続けている。

 連邦議会では、全議員の約3分の1に当たる88人が禁止条約への賛同を誓う「議員誓約」に署名した。現政権を握っている自由党は2人。昨年、条約を推進する議員連盟も発足した。

 これまではどの政権も「核の傘」への依存政策を維持してきたが、現在野党の労働党は18年、政権を握れば禁止条約に署名・批准することを目指す、と党大会で決議した。その年の世論調査では、国民の79%が条約に参加すべきだと答えた。期待できる動きだ。

 しかもオーストラリアは南太平洋非核地帯(ラロトンガ)条約の加盟国でもある。背景に、南太平洋の島々でかつて米国、英国とフランスが核実験を繰り返し、市民が反発したことがある。オーストラリア国内でも1952~63年、英国が核実験を12回実施した。

 放射能汚染が広がり、先住民アボリジニたちはがんなどの健康被害に苦しんだ。差別を受け、救済策はわずか。日本と違い、自分の国の核被害について国民の多くは知らない。

 オーストラリアのウラン埋蔵量は世界一。私は学生時代、ウラン採掘や廃棄物による環境や生物への影響を知り、核問題に関心を持った。さらに、核実験被害者の証言に心を動かされて卒業後「ICANオーストラリア」に加わった。

 被爆国日本も、条約に参加していない。恥ずかしいことだ。核兵器が使用される場合があってもいい、と認めるのと同じ。被爆者の声に耳を傾け、政府の意思で条約に批准してほしい。(湯浅梨奈)

(2021年5月10日朝刊掲載)

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