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全力傾けたかったのに 聖火への思い変わらず リレー公道中止 ランナー複雑

 新型コロナウイルス感染の急拡大を受け、公道での開催が11日に正式に中止となった広島県内の東京五輪聖火リレー。昨年からの延期に続き、本番まで約1週間前の判断に、準備を続けてきたランナーから「残念」「観客の前で走りたかった」と落胆の声が広がる。一方「無観客でもできることを」と代替策のセレモニーに希望を見いだす人もいる。

 「リレーに全力を傾けるつもりだったのだが」。97歳で陸上競技を始め、マスターズ大会で好記録を残した三次市の冨久正二さん(104)は残念がる。コロナ禍で五輪延期が決まり、トレーニングを中断。ことし3月末に練習を再開し、気力が戻ってきた直後だった。

 広島市安佐南区の被爆者梶矢文昭さん(82)は「仕方ないが聖火に懸ける思いは変わらない」と冷静に受け止める。ランナーに選ばれて以降、1日約2キロのウオーキングを重ねた。教員時代の元同僚はトーチの模型を手作りし、応援してくれていた。公道開催の代わりに、平和記念公園(中区)である無観客の点火セレモニーへの参加を望む。「被爆死した人への慰霊と、平和な世の中が続くようにとの祈りを込めたい」

 1964年の東京五輪の聖火リレーで最終走者を務めた三次市出身の故坂井義則さんの弟孝之さん(74)=東区=は「町から町へ、人から人へとつなぐのが本来の聖火リレーなのだが…」と肩を落とす。三次高2年だった前回の東京五輪聖火リレーで同市を走り、今回も大役に決まっていた。

 昨年12月の全国高校駅伝で5年ぶり2度目の男女同時優勝を果たした世羅町の世羅高陸上部からは男女の両主将が選ばれていた。女子の細迫由野主将(17)は「観客の前でなくても全国大会を制した高校としてふさわしい振る舞いをする」。男子の塩出翔太主将(17)は「ライブ配信などがあると思うので、コロナ禍でも勇気を与えたい」と誓った。

 府中市の教諭中林日登美さん(57)は、5年前にがんのため27歳で亡くなった次男の士(あきら)さんの遺影をしのばせて走るつもりだった。「息子や私たち家族は大勢の人に支えられてきた。皆さんの前で感謝を伝えたかった」と涙を浮かべて惜しんだ。

 「周りも楽しみにしていたので頑張りたかった。病院で働きコロナで大変な状況も分かっているのでやむを得ない」。呉市の看護助手大賀康平さん(25)は無念さを押し殺し前を向いた。

(2021年5月12日朝刊掲載)

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