×

社説・コラム

天風録 『スズメのお宿』

 夕暮れ、広島市平和記念公園に架かる元安橋のたもとが騒がしい。チュンチュンと、街路樹から輪唱が聞こえる。群れのねぐらだろうか。道向かいに「スズメのお宿」となった原爆の子の像が見える▲人里を好むスズメにも住宅事情はままならぬようだ。「お宿」にしやすい瓦屋根が減った。一方、餌は人にねだりやすくなったらしい。公園のかいわいでベンチに誰かが座ると、ほどなく寄ってくる。目を合わせては、ねだるように小首をかしげる▲人間を怖がらぬ「手乗りスズメ」の出現が10年ほど前、日本鳥(ちょう)学会で報告されたことがある。野鳥を餌付けし、定年後の孤独を癒やす熟年世代の増加を背景に挙げていた▲そんな仮説を裏付ける調査結果を今週、内閣府が示した。日米両国とドイツ、スウェーデンの比較で、日本の高齢者は「親しい友人なし」が3割余りと飛び抜けて多い。コロナ禍生活で孤独の時間は一層増えていよう▲孤独を友とした尾崎放哉の句にある。〈雀(すずめ)のあたたかさを握るはなしてやる〉〈畳を歩く雀の足音を知って居る〉。巣から落ちたひなでも拾ったのだろうか。「スズメのお宿」の国勢調査でもあれば、人の心も見えてきそうな気がする。

(2021年5月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ