×

ニュース

被服支廠 全3棟耐震化 広島県方針 従来方針を転換

 広島県が、広島市南区の最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」のうち所有する全3棟を耐震化する方針を固めたことが15日、分かった。概算工事費は1棟当たり5億8千万円で、実現すれば内部を見学できるようになる。安全対策の原案で「2棟解体、1棟の外観保存」としてきた従来の方針を転換させ、3棟保存へ踏み出す形となる。

 複数の関係者によると、県は、6月に開会予定の県議会定例会に提出する2021年度一般会計補正予算案に、実施設計費の計上を目指す。「2棟解体、1棟の外観保存」を支持してきた県議会最大会派の自民議連(33人)では、全3棟の耐震化の容認論が広がっている。

 県は3棟保存を正式に決めていないが、有識者から国の重要文化財(重文)級の価値があると指摘されており、解体はできないとみている。一方で老朽化しているため周辺への影響を鑑みて、将来の利活用に支障がない内部見学案を基に安全対策をすると判断したという。

 内部見学案は、県が昨年10月から建物を再調査し、12月に耐震化の有無と活用度合いに応じて概算工事費をまとめた4パターンのうちの一つ。17年度の前回調査で示した外観保存案、一部活用案、全面活用案の3パターンに、「安全対策と最小限の利活用を同時に実現する案」として加えた。

 この案では、建物内側を鉄骨で耐震補強する。見学者を1階では人数制限なく、2、3階では計50人程度受け入れられる。内装工事はしない。概算工事費は4パターンのうち2番目に安い。耐震化した後でも追加工事をすれば、会議室や博物館などに一部や全面を使えるようになる。

 県は今後、国重文の指定に必要な調査をする見通し。調査官が4月上旬に視察した文化庁からは、内部見学案での耐震化はおおむね妥当との意見を受けている。指定に向けて、有識者たちによる検討組織の設置を検討している。

 県は安全対策を急ぐ一方で、利活用策の検討も進める構えでいる。被爆の実態を未来に伝える建物である点を最も重視し、国や広島市と設けている研究会で議論する意向を示している。

 県は19年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」案を公表したが、被爆者団体などの意見を踏まえて20年度の着手を見送った。20年12月の再調査の結果や有識者からの重文級の価値があるとの指摘を踏まえて、湯崎英彦知事は21年2月、現行方針案の見直しを含めて最終的な方向性を検討すると表明していた。(河野揚)

(2021年5月16日朝刊掲載)

年別アーカイブ