×

ニュース

広島・大久野島沖海底で毒ガス弾?発見 4ヵ月放置

■記者 城戸収、中島大、白石誠

 旧日本軍の毒ガス工場があった竹原市大久野島沖の海底で1月に見つかった化学兵器とみられる不審物の処理が、4カ月近くたった今も宙に浮いた状態になっている。環境省と防衛省のどちらが担当するか、法的な責任があいまいなためだ。引き揚げ処理には高額な経費がかかることも一因とみられ、地元の毒ガス研究者は「戦後処理の問題に及び腰な国の姿勢が表れている」と指摘する。

 不審物は1月19日、環境省の海底送水管敷設工事に伴う調査で見つかった。島の北側約60メートルの地点で、水深約20メートルのところに約20個あった。海上自衛隊は不審物の外観を写真で確認し「特定できないが化学兵器の疑いがある」と関係省庁に報告。環境省はヒ素を含むくしゃみ性ガスの「あか筒」の可能性があるとする。

 公表は遅れた。第六管区海上保安本部(広島市南区)が広く注意を呼び掛けたのは4月24四日の記者会見。大型連休を控え、進まぬ関係省庁の対応を見かね独自で広報に踏み切った。付近にはブイを設置している。

 「戦争の負の遺産」といえる毒ガス弾への対応は法規定がなく、2003年12月に閣議決定された。陸上で発見された場合、主に環境省が防衛省などと協力し、掘削、処理をすると規定する。一方、水域は「内閣官房が総合調整し関係省庁間で連携して対応」との表記にとどまり、明確なルールがない。

 このため、工事主体の環境省は「処理規定もなく、現段階で本省の事務に該当しない」。防衛省も「要請があれば可能な範囲で協力する」との立場だ。調整役の内閣官房は「化学兵器か特定できず、専門的知見も必要で検討に時間がかかる」と見通しは立っていない。

 検討が長期化する背景には処理コストの問題がある。引き揚げ費も加わり高額な経費が見込まれる。

 環境省毒ガス情報センターは「仮にあか筒なら、海底にある限り危険度は低く放置しても構わない」との見解だ。内閣官房も「可能性の一つ」とする。これに対し六管の関係者は「万一の事態への危機感が薄い。陸に上がる可能性は否定できず、十分に危険だ」と疑問を投げ掛ける。  大久野島の歴史的背景も検討に影響している。1973年に国が公表した全国調査結果は、島周辺に毒ガス弾が海洋投棄された証言や資料があることを報告している。市民団体「毒ガス島歴史研究所」の山内正之事務局長(64)=竹原市=は「投棄量についての記録はないが、まだまだ見つかるだろう」とみる。

 内閣官房は「引き揚げ処理すると判断すれば、今回見つかった分だけでなく、一帯の海底調査が必要との議論も出てくる」と検討への影響を認める。

 同研究所の山内事務局長は「国は無視したいと考えているのではないか。ヒ素が残る可能性があるのにほうっておくのはおかしい」と訴える。

 地元の広島県は島周辺の水質調査で海洋汚染は確認していないとするが、芸南漁協(竹原市)は一帯海域での漁をやめた。福本悟組合長は「風評被害が一番心配だが、危険物なら早急に取り除いてほしい」と話している。


大久野島の毒ガス工場
 1929年、陸軍造兵廠(しょう)火工廠忠海兵器製造所として開所。「きい1号」と呼ばれたびらん性のイペリット、催涙性の「みどり」、くしゃみ性の「あか」などを製造した。米太平洋陸軍の資料によると、総生産量は原液状態で6616トンに上る。現在、島内に住民はおらず、宿泊施設の休暇村大久野島や毒ガス資料館がある。

(2009年5月9日朝刊掲載)

関連記事
毒ガスの歴史語り継ぐドキュメンタリー「伝言」が完成 (09年2月 3日)
イラン毒ガス禍 医療支援 ヒロシマの教訓と大久野島の経験もとに現地医師団の研修受け入れ(08年2月21日)

年別アーカイブ