×

社説・コラム

社説 パレスチナ全土緊迫 暴力の応酬 即時停止を

 このまま国際社会は座視していいのか。イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの空爆は犠牲者の数を増すばかりだ。ガザだけではなくパレスチナ全土が緊迫し、イスラエル国内ではユダヤ系住民とアラブ系住民の暴力沙汰が広がっている。

 ガザを実効支配するイスラム組織ハマスも、イスラエルの都市部にロケット弾攻撃を続けている。対立の激化に伴い、イスラエル軍がガザへ地上侵攻する局面にもなりかねない。暴力の応酬は停止すべきである。

 ガザの市民は空爆の危険にさらされ、死者は子どもを含め180人を超す。AP通信などの支局が入るビルも破壊されたとは常軌を逸している。市民や報道機関を無差別に攻撃対象にするのは国際法違反だと、グテレス国連事務総長は指摘し「何としても避けねばならない」と強調した。和平への道は遠くても国連を中心に国際社会は停戦への介入を急ぐ必要がある。

 イスラム教のラマダン(断食月)が始まった4月以降、エルサレムで連日、パレスチナ人とイスラエル警察の衝突が発生してきたことが伏線である。エルサレム旧市街にはイスラム教とユダヤ教双方の聖地があることから、火種となりやすい。

 イスラエルの民族構成はユダヤ系7割、アラブ系2割だが、世代を超えて抑圧されてきたアラブ系の行動が激化しているのが今回は際立つ。政権基盤が弱いとされるネタニヤフ首相が15日、ハマスとの戦闘は「正しい戦いだ」としてガザ空爆の継続を宣言したのも、国内外に強硬姿勢を示す意図があろう。

 だが、火に油を注いでいる。ガザのハマスと戦闘が続く中、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸でもイスラエル部隊はパレスチナ人と衝突し、パレスチナ人に死者が出ている。さらにレバノンやヨルダンといった隣国の反イスラエル勢力も刺激しているのは由々しき事態だ。

 1948年のイスラエル建国に端を発した中東紛争は、93年にイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)が取り決めたオスロ合意によって解決へ光を見いだした。その合意は「2国家共存」であり、米国も含む国際的合意だったはずである。

 ところが中東和平には至らないまま、米前大統領のトランプ氏が暴挙に出た。エルサレムをイスラエルの「首都」と認め、大使館移転を実行に移した。国際社会の反発は招いたものの意に介さないで、中東の混迷をさらに深めたといっていい。

 バイデン大統領は15日、ネタニヤフ首相、アッバス・パレスチナ自治政府議長双方と電話会談し、中東和平への最善の方法として「2国家共存」を強く支持することを伝えた。ならばバイデン氏はトランプ政権の負の遺産も清算し、オスロ合意の原点に戻らなければなるまい。

 だが、外交面では対中戦略を重視するバイデン政権の中東への関与は、いかにも弱いと言わざるを得ない。「2国家共存」の具体化へ、明快な戦略を持って実行に移すべきである。

 ガザは東京23区の6割ほどの広さに200万人が住む。イスラエルによる封鎖は「天井のない監獄」とも呼ばれ、実態は人道危機にほかならない。わが国もガザ住民の救済、封鎖の緩和や解除をイスラエルにあらためて求めるべきである。

(2021年5月17日朝刊掲載)

年別アーカイブ