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聖火に非核の願い 被爆者の梶矢さん 姉ら慰霊 証言続ける

 「平和だからこそ聖火リレーができる」。17日、広島市中区の平和記念公園であった東京五輪の聖火リレー。ランナーの一人として参加した被爆者梶矢文昭さん(82)=安佐南区=は、被爆死した姉をはじめ多くの犠牲者の慰霊、平和への祈りを胸に聖火をつないだ。(浜村満大、城戸昭夫)

 原爆死没者名簿を納める原爆慰霊碑前。梶矢さんは神妙な面持ちでトーチを持ち、火を受けた。慰霊碑とその奥の原爆ドームに向かって一礼し、次のランナーに火をつないだ。「感無量だった」

 現在の東区上大須賀町にあった荒神町国民学校(現荒神町小、南区)の分散授業所で被爆した。爆心地から約1・8キロ。民家を借りた仮の学びやで、2学年上の姉文子さん=当時(9)=と掃除中だった。突然の爆風で民家は倒壊。自身は自力ではい出し避難した。その後、文子さんが家の下敷きとなって帰らぬ人となったことを知った。

 「私にとって火は二つの意味がある」。あの日、多くの命を奪い去った憎い炎。そして、平和の象徴でもある聖火。2019年に大役に選ばれてから、リレーを心待ちにしていた。

 新型コロナウイルスの影響で、大会とともにリレーも1年延期になった。日課のウオーキングは欠かさず続けてきたが、感染の急拡大で今月11日に公道でのリレーは中止に。それでも「聖火に懸ける気持ちは変わらない」と本番を見据えてきた。

 小学校の教諭や校長を経て、「ヒロシマを語り継ぐ教師の会」の結成に尽力した梶矢さん。現在は同会の事務局長も担う。被爆の悲惨さを伝える役割を「ライフワーク」と自らに言い聞かせ、小中学校などで証言を重ねる。

 「核兵器の使用は広島と長崎で終わりにしないといけない。平和が続いてほしい」。梶矢さんは変わらぬ信念を胸に刻み、すがすがしい表情で平和記念公園を後にした。「やり遂げられて満足感でいっぱい」

(2021年5月18日朝刊掲載)

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