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社説・コラム

天風録 『物まねと素顔の田村正和さん』

 額に指を当て「えー、二、三お伺いしたいことがあるんですけど」。20年以上前にはやった物まねは今も通用する。平成の人気ドラマ「古畑任三郎」。主人公と演じる田村正和さんの個性が重なり、親しまれた。届いた訃報に幅広い世代が悼む▲推理と話術で犯人を追いつめていく役どころだった。いわば日本版「刑事コロンボ」だが、こちらはスタイリッシュ。ボソボソした口調を含め、素の田村さんだったのだろう。「異常にせりふが長いのは困った」とも▲映画やドラマで二枚目からコミカルな役まで。独特のせりふ回しが物まねされるが、若い頃は声が通らないために脇役が多かった。やがて注目されると、「和製ディーン」の見出しが記事に付く。時代にあらがう若者のイメージもまとっていた▲半世紀以上前には映画「記録なき青春」に主演した。演じたのは広島の被爆2世の役だ。陰のある風貌もあいまって起用されたのだろうか。原爆の爪痕や自らの運命を、振り払うように駆け抜ける若者の姿が胸を打つ▲照れ屋で恥ずかしがり屋―。自らをそう語る俳優は、私生活を明かさぬことでも知られた。また一人、「スター」が消えて銀幕もテレビも寂しくなる。

(2021年5月20日朝刊掲載)

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