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被服支廠耐震化を表明 広島県 3棟保存へ一歩 内部見学案 来年度にも着工

 広島県は19日、広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」のうち、所有する全3棟を耐震化する方針を正式に表明した。2019年12月に打ち出した安全対策の原案「2棟解体、1棟の外観保存」から事実上、方針転換し、保存へ踏み出す。早ければ22年度に着工できる見通しとなり、活用策は今後、検討する。(河野揚)

 被服支廠は近年、存廃議論で揺れ続けてきただけに、今回の方針は「物言わぬ証人」と呼ばれる被爆建物を後世に残す大きな節目となる。1号棟前で被爆した市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」の中西巌代表(91)=呉市=は「保存をしてくれると受け止めている。実現すれば、あの場所で尊い命を失った多くの犠牲者にも少しは喜んでもらえる」と期待した。

 新たな方針は、県の担当者がこの日の県議会総務委員会で説明した。「実施設計に必要な予算を、早く示したい」と述べた。

 新方針は、昨年12月に耐震化の有無と活用度合いに応じてまとめた4パターンの利用形態のうち、概算工事費が1棟当たり5億8千万円の内部見学案を採用した。建物の内側を鉄骨で耐震補強し、見学者を1階では人数制限なく、2、3階では計50人程度受け入れられる。追加の補強工事で会議室や博物館に使えるため、将来の利活用にも支障がないとしている。

 複数の関係者によると、県は6月25日に開会予定の県議会定例会に提案する21年度一般会計補正予算案で、実施設計費の計上を目指す。可決された場合の工期は現段階で、実施設計で1年半から2年程度、耐震化で1棟につき最大2年程度を見込んでいる。

 並行して、有識者たちによる検討組織を設け、国の重要文化財(重文)の指定に必要な調査を進める。内部見学案での耐震化について、文化庁からはおおむね妥当との意見を受けている。現存する4棟のうち残る1棟を持つ中国財務局には、指定で連携するよう働き掛けるという。

 県は「2棟解体、1棟の外観保存」案を公表後、被爆者団体などの意見を踏まえて20年度の着手を見送った。その後、有識者から重文級の価値があるとの指摘を受け、湯崎英彦知事は今年2月に「現段階で建物の解体を俎上(そじょう)に載せるのは適当でない」との見解を示していた。

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年完成で、爆心地の南東2・7キロにある。13棟のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を公表した。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2021年5月20日朝刊掲載)

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