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平和条例 進め方に賛否 市民からの修正論多数でも検討会議1人反対なら文面維持

 広島市議会(定数54)が制定を目指す平和推進条例で、募った市民意見を条文に反映させる手法に賛否両論が出ている。素案を議論している政策立案検討会議は、修正論が多数の場合でも、1人が反対すれば文面を維持する「全員合意」を申し合わせているからだ。「意見を反映させる姿勢が足りない」などの疑問や批判と、「最後までそのルールを守るのは当然」との擁護論が交錯している。

 「平和行政を支える市民から懸念を示す声が集まったのに、検討会議の議論は意見を聞いたアリバイづくりに映ってしまう」。検討会議の会合の傍聴を続けている市民団体「平和推進条例の改善を求める市民キャンペーン」の渡部久仁子代表(40)は不満を強める。

 象徴的だったのが19日の会合だ。市の平和推進施策に「市民が協力する」とする第5条の表現について、各会派の代表9人でつくるメンバーの多くは「努力義務を課すべきではない」などと削除を求めたが、1人が強硬に反対。結局、素案のままで決着した。

 検討会議は4月から、前文と全10条への意見を条文ごとに分けて会合を重ねている。前文では核兵器禁止条約発効などに触れるかどうか、第2条では「平和の定義」を広く定めるかで意見が分かれ、いずれも素案を維持した。4回の会合で修正したのは、前文の「被爆75年を迎え」を「被爆75年を過ぎ」とする事実関係の1カ所にとどまる。

 検討会議が「意見が割れた場合は素案を維持する」と決めたのは、昨年12月にさかのぼる。各会派内の協議を踏まえて13回の会合でまとめ上げており、追加や修正、削除は「全員合意」が必要と定めたからだ。

 この判断への評価は、傍聴者の間で割れる。広島県原水禁の金子哲夫代表委員(72)は「運営方法は会議の決定で否定しないが、せっかくの条例に市民意見を取り入れようという姿勢が感じられない」と残念がる。市民団体「静かな8月6日を願う広島市民の会」の石川勝也代表(65)は「全会一致と決めたならば、最後までそのルールを守るのは当然」との立場を取る。

 検討会議代表の若林新三市議は「検討会議は少数会派も含めて知恵を出し合う場だ。委員の意見を積み上げた内容は大切で、簡単に変えられない」と理解を求める。条例案は、6月15日に開会予定の市議会定例会への提案を目指すという。

 今後の協議で最大のヤマ場となるのが、今月26日の会合だ。「平和記念式典を厳粛の中で行う」とした6条2項を取り上げる。

 6条2項を巡っては、1~3月の公募などで素案に寄せられた延べ1043件の意見のうち、関連する内容が最多の459件を占めた。維持を訴える声や「厳粛」の削除を求める意見などが入り交じる。県被団協(坪井直理事長)と、もう一つの県被団協(佐久間邦彦理事長)の被爆者が加わる県原水協は、「厳粛」の修正か削除を求めている。

 広島大の田村和之名誉教授(行政法)は「条例には大きな意味があるのに、しゃくし定規な審議になっている」と指摘する。全員合意を貫くのは、修正の可能性がないのに市民の声を集めたのと等しいとして「寄せられた意見を生かすためにもいったん立ち止まり、検討会議の進め方を考え直すべきだ」と注文している。(新山創、水川恭輔)

広島市議会の平和推進条例の素案
 前文と全10条からなる。各会派の代表でつくる政策立案検討会議が2020年12月、13回の会議を経てまとめた。19年には平和関連団体と有識者に意見を聞き、内容の一部を反映させたとする。素案に対しては、検討会議による今年1~3月の公募などで、延べ1043件の市民意見が寄せられた。平和記念式典を「厳粛の中で行う」と定めた条文などで賛否が分かれた。市議会は当初、20年度中の制定を目指したが、市民意見を検討するためとして21年度に先送りした。

(2021年5月25日朝刊掲載)

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