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「核廃絶へ前進」願った被爆地 オバマ氏広島訪問5年

 米国の現職大統領としてオバマ氏が初めて被爆地広島を訪れてから、27日で5年を迎えた。広島、長崎に原爆を投下した核超大国のリーダーの訪問に、多くの被爆者が「抜本的な核軍縮を前に進める契機にしてほしい」と期待した。だが、米国の核政策は願い通りの方向には進まず、後任のトランプ氏の下では「逆行」といえる動きを見せた。今年1月には、オバマ政権で副大統領を務め、「核兵器なき世界」の目標を引き継ぐ意欲を示すバイデン氏が大統領に就いた。5年の動きと米国の今後の核政策の焦点をみた。(水川恭輔)

米国の動き

禁止条約に「逆行」

 「核を保有する国々は、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければならない」。2016年5月27日、広島市中区の平和記念公園を訪れたオバマ氏は原爆慰霊碑前で演説し、強調した。碑前に招かれた被爆者代表たちは、米国が自ら核軍縮の具体的な行動をとることを期待した。

 1カ月半後の7月10日。オバマ氏が、相手国による核攻撃前に核兵器を使わない「核の先制不使用」の採用を検討していると、米紙が伝えた。被爆者たちの間では核兵器廃絶へ「半歩前進」(日本被団協)との期待が広がったが、結局見送られた。核抑止力の弱体化を懸念する日本などの同盟国や、政権内の反対論を無視できなかったとされる。

 17年1月に大統領となったトランプ氏は就任直後から、核戦力の増強に意欲を示した。米政府は米ニューヨークの国連本部で同3月から開かれた核兵器禁止条約の交渉会議をボイコット。本部内で異例の記者会見を開き、「禁止条約は国際安全保障に悪影響を与える」との批判を展開した。同7月に禁止条約が採択された後も、反発を続けた。

 18年2月に公表した核戦略指針「核体制の見直し」(NPR)には、「使える核」とも称される小型核の開発などを明記。冷戦終結を後押ししたロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約では離脱を表明し、19年8月に失効した。相次ぐ「逆行」に、被爆地には幾度となく憤りが広がった。

 昨年11月の米大統領選は、民主党候補のバイデン氏が共和党のトランプ氏に勝利した。バイデン氏は同8月、原爆投下から75年に合わせて「広島、長崎の恐怖を二度と繰り返さないため、核兵器のない世界に近づけるよう取り組む」と表明。オバマ氏の目標の継承に意欲を示している。

 オバマ氏はヒロシマ演説で、核兵器をなくしていく「道徳的な目覚め」も訴えた。一方で米国を含む核保有国は、核兵器を道徳的に「絶対悪」の非人道兵器と位置づけて速やかな廃絶を目指す禁止条約に背を向け続けている。禁止条約に賛同する被爆者たちの思いとの隔たりは依然、大きい。

「継承」の行方

「先制不使用」採否が焦点

 オバマ氏の目標を引き継ぐことに意欲を示すバイデン氏の核政策で、最大の焦点となるのが「核の先制不使用」を採用するかどうかだ。安全保障上の核の役割が減って数の削減が進み、核戦争のリスクも減ると指摘されている。

 バイデン氏は2017年の副大統領退任直前の演説で、オバマ氏の広島訪問と原爆投下国の核兵器廃絶への道義的責任に触れ、先制不使用を推進する立場を表明した。反核団体は日本政府に「障壁となるのではなく後押しを」と求めているが、加藤勝信官房長官は今年4月の記者会見で「わが国の安全保障に十全を期すことは困難だ」と現時点での採用に懸念を示した。

 1月に発効した核兵器禁止条約について、推進する非保有国と対話姿勢を取るかどうかも注目となる。

 核軍縮のためのさらなる措置などを検討する締約国会議は、条約に入っていない国もオブザーバーとして参加できる。米国はオバマ政権時も核抑止力を保持しながらの段階的な核軍縮を主張し、核兵器の法的禁止に反対したが、禁止条約制定の機運を高めた非保有国主導の国際会議に出席したことはあった。

 広島市は今年1月、長崎市とともにバイデン氏の被爆地訪問と米国の締約国会議への参加を求めた。広島市平和推進課は「核兵器を廃棄したことを確かめる検証措置の規定など、禁止条約に核兵器廃絶への実効性を持たせる議論を進めるためには、保有国の参加が重要だ」と説く。

オバマ氏の広島訪問
 オバマ氏は米大統領だった2016年5月27日、広島市中区の平和記念公園を訪問。原爆資料館で犠牲者の遺品などを見た後、原爆慰霊碑に献花し、碑前で演説した。訪問行事には、広島県被団協理事長で日本被団協代表委員の坪井直さん(96)たち被爆者や、平和活動に取り組む若者が招かれた。滞在時間は52分だった。

(2021年5月27日朝刊掲載)

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