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「厳粛」規定修正せず 広島市平和推進条例素案 市議会会議

 平和推進条例の制定を目指している広島市議会の政策立案検討会議は26日、8月6日に市が営む平和記念式典を「厳粛の中で行う」と定めた条例素案の第6条2項を、修正しないと決めた。被爆者団体や平和団体が「言論の規制につながる」などと削除や修正を求めていたが、検討会議の委員の意見が割れ、修正などでは全員合意が条件としている申し合わせに従った。

 市議会棟であった会合には、各会派の代表9人が出席。式典について「市は、市民の理解と協力の下に、厳粛の中で行う」と規定する第6条2項を協議した。

 7人が素案を支持した。市議会が2019年6月の本会議で「式典が厳粛な雰囲気で挙行されるよう全ての人に協力を求める」と全会一致で決議した点に触れ、「条例は決議の実行を促すものだ」などと主張した。「静ひつ」の追加を求める意見もあった。

 1人は2項そのものの削除を求めた。「式典は追悼を目的に静かに行うもので、あえて条例に定めなくてもよい。決議と条例を関連づける必要もない」と指摘。2項だけが式典という具体的事業を規定したことに疑問を呈した。もう1人は立場を表明しなかった。

 意見が割れたのを受け、申し合わせ通り、文言を維持すると決めた。会議代表の若林新三市議は終了後、「『厳粛』は、市民ではなく市に義務を課している。市民の理解と協力を得た上で求めており、押しつけではない」と説明した。

 検討会議は今後、第7~10条や付則のほか、条文全体について再度議論し、素案を決める。6月15日開会予定の市議会定例会での条例案提案を目指している。(新山創)

被団協など懸念・疑問 文言維持 歓迎の団体も

 広島市議会の平和推進条例素案で最大の焦点となっていた平和記念式典の「厳粛」を求める第6条2項の維持が決まった26日、反対していた被爆者団体や市民団体は懸念や疑問の声を上げた。「静かな式典」を説く市民団体は歓迎した。

 政策立案検討会議の議論を市議会棟で傍聴した広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(79)は「条例で厳粛を強調することには賛成しない」と述べた。原爆投下に至った背景には戦時下の言論統制もあったとし、表現の規制につながりかねない文言を懸念した。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(76)は、式典について「厳粛さは自発的なものであるべきで、行政が課すものではない。条例の効力は一時的ではなく永続する。議論を急ぐべきではない」と訴えた。

 式典が営まれる8月6日の原爆ドームや会場周辺でのデモを巡っては、市が拡声器の音量を規制する条例を検討し、被爆者団体などの慎重論を受けて市議会提案を見送った経緯がある。

 デモをする団体の一つ、市民団体「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」の中島健共同代表(74)は「条例はなくても、拡声器の扱いについて市と話し合いを重ねている最中だ。なぜ今、条例制定を急ぐ必要があるのか」といぶかしんだ。

 素案のままの条例制定を主張する市民団体「静かな8月6日を願う広島市民の会」の石川勝也代表(65)は、素案維持の結果について「希望通りで安心した。式典は慰霊の場で、厳粛であるべきだ」と強調した。

 「市民の理解と協力」「厳粛」などの文言を盛り込んだ2項には、検討会議による今年1~3月の公募などで延べ459件の市民意見が寄せられた。これとは別に2月には、広島弁護士会が会長声明を発表。「市民の表現行為に与える萎縮効果は大きい」として修正を求めている。

 当時、会長だった足立修一弁護士(62)は、条例化の重みと比べて、議論が表層的だと感じている。「たとえ罰則がなくても、現場では条例を基に規制しようとする動きが出かねない。制定した条例が、現場でどう使われるかまで見据えた議論ができているのだろうか」と懸念した。(明知隼二、新山創)

広島市議会の平和推進条例の素案

 前文と全10条からなる。政策立案検討会議が2020年12月、13回の会議を経てまとめた。19年には平和関連団体と有識者に意見を聞き、内容の一部を反映させたとする。素案に対しては、検討会議による今年1~3月の公募などで、延べ1043件の市民意見が寄せられた。市議会は当初、20年度中の制定を目指したが、市民意見を検討するためとして本年度に先送りした。4月以降の4回の会合で修正したのは前文の「被爆75年を迎え」を「被爆75年を過ぎ」とした1カ所にとどまる。

(2021年5月27日朝刊掲載)

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