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社説・コラム

社説 ガザ停戦合意 和平交渉再開の契機に

 イスラエルと、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、ようやく停戦に合意した。隣国エジプトの仲介を双方が受け入れた。

 ハマスによるロケット弾の攻撃に、イスラエルも空爆で応酬し、地上からも砲撃を続けた。11日間の交戦で、ガザ側では232人が犠牲になり、イスラエル側も12人が死傷した。

 イスラエルは今も、ハマスの無差別攻撃に対する自衛権の行使だったと主張している。

 だが圧倒的な軍事力を持つイスラエル軍の攻撃で、ガザでは逃げ場のない多くの市民が巻き添えになった。犠牲者のうち4分の1は何の罪のない子どもだった。市街地や住宅地まで標的にするような空爆を繰り返したことは断じて許されない。

 流血と破壊を、これ以上繰り返してはならない。イスラエルとハマスの衝突を巡っては、これまでにも停戦合意が何度も破られてきた経緯がある。双方には、まずは停戦協定を順守することが求められる。

 今回の戦闘は、双方が聖地とする東エルサレムの帰属を巡る対立が発端となった。背景にあるのはイスラエルが占領する東エルサレムの現状である。

 イスラエル側が東エルサレムに暮らすパレスチナ人に立ち退きを迫ったり聖地での礼拝を妨げたりしてきた。不満を募らせたパレスチナ人とイスラエル警察の間で衝突が多発していた。

 停戦に合意したとはいえ、争いの火種はくすぶり続けている。パレスチナ人を強制退去させる問題が解消したわけではない。ガザでは、ハマスが実効支配を続け、パレスチナ自治政府の求心力が低下している。ハマスの存在感が増せば、パレスチナの分断が進みかねない。

 緊張緩和を促すには、国際社会の関与が欠かせない。今回停戦を仲介したエジプトは代表団を派遣し、監視する方針を表明している。日本も欧米各国と連携して監視活動を支援する必要がある。

 一方で、今回の戦闘がエスカレートしていく中、国連安全保障理事会は4回の会合を開きながら、声明一つ出すことができなかった。イスラエルとの関係を重視する米バイデン政権が反対したためだ。

 イスラエルに一方的に肩入れしてきたトランプ前政権からの方針転換を表明しながら、米政界で影響力を持つユダヤ系に気を使い、厳しい姿勢を打ち出せなかった。その非力ぶりに国内外から失望の声が上がったのも当然だろう。多国間協調と人道主義を掲げる政権の信頼性にも禍根を残したのではないか。

 争いを断つには、パレスチナ国家の樹立を認め、イスラエルとの「2国家共存」の道を探るしかない。

 そのためには今回の停戦を、2014年以来途絶えたままの和平交渉を再開させる契機にしなければならない。バイデン政権は双方からの信頼を回復し、公平な仲介役として対話による和平実現を急ぐべきだ。

 ガザでは、戦闘により1万7千棟が破壊され、7万人以上が避難を余儀なくされている。電力や水道などのインフラも打撃を受けた。新型コロナウイルス感染の拡大も懸念される。生活再建と復興に向けて、日本を含め国際社会は人道支援も急がなければならない。

(2021年5月28日朝刊掲載)

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