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社説・コラム

社説 香港の選挙制度見直し 高度の自治 弾圧許せぬ

 香港に「高度の自治」を保障してきた一国二制度は完全に崩れ去ってしまったようだ。議会に当たる香港立法会から民主派議員を排除する選挙制度の見直し条例がきのう施行された。

 今後は中国政府が「愛国者」と認めた人物しか立候補できなくなる。中国の習近平指導部が重きを置く「愛国者による香港統治」の総仕上げなのだろう。

 香港の政治を掌握し、力ずくで中国共産党による支配を行き渡らせようとする暴挙といえ、容認することはできない。

 1997年、英国から香港の返還を受けた際、中国は一国二制度を50年間維持することを国際公約にした。これをほごにした制度変更で、欧米をはじめ国際社会は強く批判している。中国は「内政干渉だ」と耳を貸そうとしないが、弾圧を止めるよう促し、香港に民主化を取り戻したい。

 条例の見直しで、立候補の可否を決める「資格審査委員会」が設置される。審査委が「愛国者」と認めた人だけが立候補資格を与えられる。香港の憲法に当たる香港基本法で認められた被選挙権が骨抜きにされた。

 香港では、地元政府の行政長官を選ぶ「選挙委員会」の委員選が9月に、立法会選が12月、行政長官選が来年3月にある。

 いずれも新制度が適用されるため、親中派議員だけの議会になる。中国寄りの現在の行政長官の再選は確実だ。

 新制度では、選挙委員会の定数を1200から1500に増やし、増員分は全て親中派組織に割り当てる。立法会の定数は現行の70から90となり、全有権者が投票できる直接選挙枠を現行の35から20に減らす。

 中国政府は、19年に香港で起きた大規模な民主化要求・反政府デモに危機感を抱き、昨年6月に香港国家安全維持法(国安法)を制定した。

 民主派の主要メンバーは、国安法違反容疑などで相次いで逮捕され、壊滅的な打撃を受けている。香港ではコロナ禍を理由にデモが禁止され、民主派の活動はほとんど機能していない。

 今回の選挙制度の見直しによって、民主派は立候補自体も困難となり、さらに厳しい状況に追い込まれることになろう。

 立法会選はもともと昨年9月に予定されていたが、コロナ禍を理由に1年延期され、12月に再延期された経緯がある。選挙制度の見直し手続きが間に合うようにしたという。

 香港政府はさらに、組織的に白票の投票や棄権を呼び掛ける行為に対しても刑事罰を科すことを今回見直した条例に盛り込んだ。民主派の排除だけでなく、あらゆる政権批判を封じ込めるつもりなのだろう。

 香港だけでなく、新疆ウイグル自治区などを巡る人権問題について、中国と、日本を含む国際社会の主張の隔たりは大きく、あきれてしまう。

 香港の民意を強引に抑え付けても、長期的な安定は得られまい。民主的な手続きに背を向けた強引な手法は逆に孤立を深め、国益も損なう。

 国際社会で中国が信頼を得るには、国際協調や政治の民主化が欠かせない。中国を説得するのは容易ではないが、日本や米国、欧州各国は対話によって粘り強く訴えていく必要がある。苦しむ香港の人たちを見捨ててはならない。

(2021年6月1日朝刊掲載)

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