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社説・コラム

社説 米露首脳会談 対話続け核軍縮進めよ

 新たな核軍縮の枠組みが進むよう期待したい。

 スイスでの首脳会談で、米国のバイデン大統領とロシアのプーチン大統領が初めて直接向き合った。核軍縮やリスク軽減措置を協議する「戦略的安定対話」の場を設けることで合意し、近く協議を始めるという。

 両国で世界の核弾頭の9割以上を保有する超核大国である。「冷戦後最悪」といわれる関係を修復しようと、双方が歩み寄った姿勢は評価できる。核軍縮へ着実な行動を求めたい。

 共同声明では、2月の新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長を、核軍備管理に向けた責務と強調した。近く両国が対話を通じて将来の軍備管理とリスク軽減措置に向けた基礎づくりに着手するとした。

 また、1985年にレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ共産党書記長が合意した「核戦争に勝者はなく、決して行われてはならない」という原則を再確認した。トランプ前政権が応じてこなかったロシアからの再確認要請にバイデン大統領が応じた形だ。ロシアと対話する姿勢を重視して、前政権の方針を覆したことは前進だろう。

 ロシアは国防費が国家予算の約3割を占めるとされる。これ以上の負担増が難しいことも背景にあるのだろう。先の見えない軍拡競争で破滅したソ連の失敗を繰り返すことはない。米国との軍縮交渉はロシアの利益にもつながるはずだ。

 今回の会談を機に、トランプ前政権が破棄した中距離核戦力(INF)全廃条約の復活へ向けた交渉も進めるべきである。新START延長後の新しい軍縮の枠組みづくりも急ぐ必要がある。

 首脳会談を、バイデン大統領は「ロシアと向き合う上で明確な基礎を築いた」。プーチン大統領は「建設的だった」とそれぞれ評価した。ウクライナ南部のクリミア半島をロシアが実効支配している問題などで関係が悪化し、互いに帰国させている大使の復帰にも合意した。

 しかし、ロシア国内に拠点があるとされる犯罪組織のサイバー攻撃対策や、反体制派活動家ナワリヌイ氏の対応などで目立った成果は上げられなかった。

 バイデン大統領はサイバー攻撃にいらだち、プーチン政権が対応しない場合には相応の措置を取ると警告した。プーチン大統領は、毒殺未遂に遭い、ドイツで治療後に帰国してロシア国内に収監されているナワリヌイ氏の処遇について「ロシア法を犯した」と正当性を強調した。

 犯罪組織への対応も打ち出せず、反体制派の人権保護にも道筋が付けられなかった点には大きな不満も残る。

 バイデン大統領は外交政策を中国に集中したい思いがあるのだろう。ただナワリヌイ氏やサイバー攻撃の問題を棚上げしてロシアと関係を改善しても世界の理解は得られまい。

 バイデン政権の真価が問われている局面と言えよう。今回の共同声明には「両国は緊張関係にある時期においても、武力衝突の危険性や核戦争の脅威を低減させるという共通の目標へ向けて前進できる」と明記されている。

 核軍縮は不変のテーマだ。両国は世界平和の実現へ口先だけではない具体的な方策を示し、行動しなくてはならない。

(2021年6月18日朝刊掲載)

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