×

ニュース

毒ガス被害者 被爆地訪れ「希望」取り戻す イラン・広島の交流 映画に

8月横川で上映 「実情知って」

 1980年代のイラン・イラク戦争で毒ガス攻撃を受けたイランの被害者と、広島市東区のNPO法人「モースト」の交流などを描いた映画が完成し、5月にイランのファジル国際映画祭で初公開された。苦しみを背負った毒ガス被害者が、被爆地とのつながりを機に、生きる希望や平和への思いを取り戻すまでを描く。広島市でも8月に上映される。(馬場洋太)

 イラン・日本合作で、タイトルは「ボナさん伝説 魔法のランプの魔神」。モーストで理事長を務める津谷静子さん(66)が、毒ガス攻撃から十数年たっても呼吸器や目などの疾患に苦しむ被害者のことを知り、広島に招く様子などが描かれる。交流の橋渡しをした通訳男性の愛称「ボナさん」が題名に使われ、映画では魔神に扮(ふん)して物語の案内役を務める。

 毒ガス被害者団体の理事も務めるハビブ・アーマザデー監督が「広島との交流のお礼に」と映画化を発案。津谷さんも「毒ガス被害を世界を発信する機会になるなら」と応じ、同様に被害者の救済に尽くしたオーストリアの医師、イランの俳優とともに出演した。

 津谷さんたちの活動は2004年4月、被爆地から世界の紛争地域などに市民を派遣する「広島世界平和ミッション」(広島国際文化財団主催)で同国を訪れたのがきっかけ。「ヒロシマは世界に知られているが、私たちの被害は知られていない」。現地で聞いた悲痛な叫びに突き動かされ、イランとの交流が始まった。

 「初めて話を聞いてもらえた」と涙し、広島で希望を取り戻す―。映画では、そんな毒ガス被害者の変化を喜ぶうち、津谷さん自身も心の苦悩から解放される様子が映し出される。「物資を届ける支援でなくてもいい。人と人が交流することで、お互いに『心の薬』を与え合えた」。17年間の活動に、実感を込める。

 広島市では、8月1~7日に横川シネマ(西区)である「広島イラン愛と平和の映画祭」で上映される。

イランの毒ガス被害
 イラン・イラク戦争(1980~88年)で、イラク軍が主に国境付近でマスタードガスなど化学兵器を使用。10万人以上が死傷し、約6万人が呼吸器や目などの後遺症に苦しんだとされる。

(2021年6月19日朝刊掲載)

年別アーカイブ