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平和条例 成立見通し 広島市議会 修正案で可決へ

 広島市議会(54人)が制定を目指して議論してきた平和推進基本条例が、開会中の定例会最終日となる25日に成立する見通しとなった。山田春男議長と渡辺好造副議長が21日、市議会政策立案検討会議がまとめた条例案のうち3点を変更した修正案を提示した。中国新聞の取材では過半数の市議が賛同する意向で、議員提案し、25日の本会議で賛成多数で可決する流れが固まった。最短で28日にも施行される。(新山創)

 3点は①前文②市民の役割を定める第5条③平和記念式典を「市民の理解と協力の下に、厳粛の中で行う」とする第6条2項。

 前文は核兵器禁止条約の発効を盛り込んだ。第5条は「主体的に」「市の平和の推進に関する施策に協力する」を削り、「市民は平和の推進に関する活動を行うよう努めるものとする」とした。第6条2項は「市民」を「市民等」に変えたが、賛否が割れている「厳粛」の表現は残した。

 修正案は山田議長と渡辺副議長が21日、市議会棟での各会派の幹事長会議で示した。18日の前回会合で、3点について修正や変更を求める声が多かったのを踏まえたという。山田議長は「多くの意見が出た箇所を修正した」として、各会派での意見集約を求めた。

 条例案に対しては、第6条2項が「市民の行動を制約すると受け止められる」などとして、二つの広島県被団協や広島弁護士会が今定例会での提案の見送りや修正を要望していた。山田議長は会合後、「要望を含めて多くの意見を参考にした。議論を延ばしても埋まらない考え方はある」と話した。

 中国新聞の取材では修正案に対して、最大会派の自民党市民クラブ(14人)をはじめ、公明党(8人)、市政改革ネットワーク(7人)などで賛同論が広がっている。25日の本会議での採決で賛成が半数を超えるのは確実だ。共産党(5人)は「市民や団体から見送りを求める意見が出ている」などとして提案自体に反対の意向を示している。

【解説】「厳粛」乱用許されぬ

 広島市議会の平和推進基本条例は、被爆者団体などが懸念を示した第6条2項の「平和記念式典を厳粛の中で行う」との条項を残したまま、成立する見通しとなった。式典を催す市が、条例に基づき「厳粛」をどう運用するのかは、いまだに明確になってはいない。乱用は許されず、市は重い課題を背負うことになる。

 毎年8月6日の平和記念式典では、会場に近い原爆ドーム周辺で拡声器を使った複数のデモ活動がされている。正副議長がまとめた修正案は、「厳粛」の定義を定めておらず、特定の団体を対象として明記しているわけでもない。結果として、市の裁量に委ねる部分が大きい内容となった。

 この最大の要因は、条例案をまとめた市議会政策立案検討会議にある。2019年7月に検討を始め、昨年12月にまとめた素案で式典を「厳粛の中で行う」と打ち出した。その後、市民に募るなどした延べ1043件の意見では「厳粛」について賛否両論が出たが、計24回の会合の中で、厳粛の定義や対象について議論を深める局面はなかった。

 広島弁護士会は「条例の成立で『意見表明を控えなければならない』と市民が受け取れば、表現の自由など憲法が侵害される恐れがある」と危惧する。罰則がないとはいえ、拡大解釈の余地はある。議論を十分に尽くしたとは言い難い中、25日の本会議への条例案の提案には疑問が残る。

 修正案について、市幹部は「すぐに何か変わるわけではないが、条例が何を市に求めているのか具体的に分からない」とこぼした。世界で初めて原爆投下を経験した都市として、条例をどう「平和推進」につなげていくのか。その重責は提案する市議会も担わなければならない。(新山創)

(2021年6月22日朝刊掲載)

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