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社説・コラム

『記者縦横』 ヒロシマ史 個々の営み

■報道センター社会担当 明知隼二

 原爆被害の実態を今に伝える古い資料の掘り起こしに取り組んでいる。被爆前後の手紙や日記、写真など形はさまざまだが、当事者が見聞きした事実や感情の一端を生々しく記録する。今なお不明点が多い被害の空白を埋める作業であり、被爆者が高齢化する中、その重要性は増している。

 こうした貴重な資料は、家族もその存在や意義に気付かないまま、押し入れや仏壇の中にひっそりと眠っていることが多い。さらに言えば、代替わりや引っ越し、自宅の建て替えなどがあれば処分されてしまう。

 21日の紙面で紹介した被爆医師の手紙も、そうしたケースの一つだ。遺族は取材をきっかけに遺品を調べ直し、手紙や手記を見つけた。中国新聞写真部員だった故松重美人さんによる被爆直後の写真にもその姿が写っているのでは、という話に発展。遺族にとっては、家族の歴史と出会い直す機会となったようだ。

 「ヒロシマの歴史」などと言われれば、どこか遠く感じてしまう人も少なくないだろう。しかしその大きな歴史も、個々の人や家族の営みと歴史が織りなすものだと考えてみたら、どう感じるだろうか。

 家族が知らなかったり、「たいしたものではない」と思い込んだりしたまま埋もれた資料が、まだまだあると確信している。ぜひ一度、しまい込まれた古い荷物をあらため、家族の歴史をひもとく機会を持ってほしい。その作業の一つ一つが、広島という土地の歴史を編む営みとなるはずだ。

(2021年6月25日朝刊掲載)

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