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黒田アートで被服支廠絵本 今秋刊行へ 現地で重ねるスケッチ 「子どもに伝わる作品に」

 広島・長崎をテーマに創作を続けるイラストレーター黒田征太郎さん(82)が、広島市南区の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」を題材にした絵本を出版する準備を進めている。拠点の北九州市から現地に通ってスケッチを重ね、既に約100枚を描いた。「小さな子どもにも伝わる絵本に」と願う。

 絵本の制作は、アートを通じて被服支廠を次世代に継承しようと、南区の市民団体「被服支廠絵本化プロジェクト」が企画。稲田恵子代表が3月、親交のある黒田さんに制作を依頼してスタートした。

 3月下旬に初めて現地を訪れた黒田さんは、建物の存在感に圧倒されたという。「すぐには描けず、そっと壁に触れることしかできなかった」。1945年8月6日に亡くなった大勢の人々が窓の奥からじっと、自分を見つめているように感じた。スケッチには、被服支廠の古びた茶色のれんが壁や、ゆがんだ窓枠に、開いたり閉じたりした目を描き込んだ。

 黒田さんは幼少期に兵庫県西宮市で空襲を体験。たあちゃんと呼んでいた国民学校の同級生は広島に疎開し、その後の消息は不明だ。「骨の髄から戦争は嫌い」との思いを絵筆に込める。

 広島県は今年5月、被服支廠について、所有する全3棟を耐震化する方針を示した。従来の2棟解体、1棟の外観保存案を事実上転換した形だ。黒田さんは「あの建物をブルドーザーで壊してしまったら、広島はヒロシマでなくなる」と話す。

 黒田さんは絵本について、「大上段に構えることなく、命の大切さを伝える作品にしたい」と構想する。今秋、東京の出版社から刊行予定。英訳も付けて世界への発信を目指す。(西村文)

(2021年6月25日朝刊掲載)

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