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社説・コラム

天風録 『平和の鐘と国際刑事裁判所』

 8月6日の朝、広島市平和記念式典で突き鳴らされる「平和の鐘」とうり二つの鐘がオランダにある。国際刑事裁判所。株が下がる一方の国際オリンピック委員会とは1字違いのICCが略称だ▲庁舎完成の祝いで日本政府から8・6の鐘と同型のものを贈られた。国際正義と平和に尽くす役割を担うからだ。裁くのは人道に対する犯罪や戦争犯罪、侵略犯罪、そして「ジェノサイド」と呼ぶ民族大量虐殺の四つ▲五つ目がそのうち加わるかもしれない。地球温暖化による海面上昇で水没の危難にさらされる太平洋の島国バヌアツが「エコサイド」を裁け―との訴えを強めている。環境や生態系を指すエコとジェノサイドを組み合わせた造語だ▲環境破壊、とでも訳すのだろうか。先進国や富裕層の加害責任を問う「気候正義」の考え方が広まり、エコサイドの定義案を示す国際的な法律家グループも現れている。「原告」の地球には心強い警鐘と弁護団だろう▲広島とオランダの鐘をどちらも鋳込んだのは富山県の釣り鐘メーカーである。先週、その経営難が伝えられた。再建に向けた話し合いが明日にも持たれるという。いつか、「再生の鐘」の音が聞こえるだろうか。

(2021年7月4日朝刊掲載)

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