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「黒い雨」の気象を再現 再検証会合 年度内に試行で一致

 米国による原爆投下後に降った「黒い雨」の被害を巡り、厚生労働省は9日、国の援護対象区域(大雨地域)を再検証する第5回の有識者会合を東京都内で開いた。被爆直後の気象状況を再現するシミュレーションについて、精度を疑問視する声が出たものの、本年度内に試験的に行う方向でまとまった。

 オンライン参加も含め委員全11人が出席した。京都大複合原子力科学研究所などに委託し、爆発からきのこ雲の発生、降雨に至る過程をコンピューター上で再現する計画に対し、複数の委員が「極めて難しい作業だ」「本当にできるのか疑問」などと異を唱えた。

 全委員に諮り、予定通り実施を決めた佐々木康人座長は会合後、「最新の科学技術を用いれば、これまでにない結果が出る」と期待を寄せた。来年度以降に結果が出る見通しだ。

 厚労省は今後の検証で、日米合同の放射線影響研究所(広島市南区・長崎市)が1950年ごろ爆心地から4キロ圏内の土壌の残留放射能を調べたとされるデータを捜し出し、判断材料の一つとする考えも示した。

 国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(中区)が保管する被爆体験記から「黒い雨」を見たとする証言を抽出する調査について、厚労省の結果報告もあった。援護対象区域と県、市が求める拡大区域の外側に当たる府中、庄原、益田、岩国市などでも29編の証言があったという。(樋口浩二)

大雨地域拡大 早急に結論を 八者協 国に7項目要望

 被爆地の首長や議会議長でつくる広島・長崎原爆被爆者援護対策促進協議会(八者協)は9日、米国による原爆投下後に降った「黒い雨」被害の再検証を急ぐことなど七つの要望を厚生労働省に申し入れた。

 広島県・市、長崎県・市の担当者は厚労省に正林督章健康局長を訪ね、長崎県の中田勝己福祉保健部長が要望書を提出した。

 非公開の話し合いでは、「黒い雨」を浴びた人たちの高齢化を改めて説明し、国の援護対象区域(大雨地域)の拡大に向けた再検証について結論を早急に出すよう訴えた。放射線影響研究所(広島市南区)の早期移転や原爆症の認定基準の見直しも求めた。

 協議後、中田部長は援護対象区域の再検証に関し「期待に応えたいとの回答だったが、具体的な時期は示されなかった」と説明。広島市原爆被害対策部の住田達哉調査課長は「被害者の思いを受け止めて早く決着させてほしい」と述べた。

広島市長も要望 厚労相とビデオ会議

 米軍による原爆投下後に降った「黒い雨」被害を巡り、広島市の松井一実市長は9日、援護対象区域を早期に拡大するよう田村憲久厚生労働相に要望した。当初は松井市長が上京する予定だったが、大雨に伴う市災害対策本部の設置中だったため、市役所からのビデオ会議方式に切り替えた。

 協議は非公開。被爆者の高齢化を強調し、「科学的知見を超えた被爆者の援護の立場に立った政治判断を優先してほしい」と訴える要望書を市職員が届け、それを巡って意見交換した。

 松井市長は終了後、田村厚労相が「国が進める区域再検証の検討会の方向を見る必要がある」などと述べたと説明した。「『(検討会を)スピード感を持ってやらなければならない』と言ってもらい、少し救われた」と振り返った。

 併せて、日米両政府が運営する放射線影響研究所(広島市南区)の現在地からの早期移転を求める要望書も出した。放影研が持つ資料を調査研究に役立てる点で、移転による機能の維持・強化は意義があると訴えている。

(2021年7月10日朝刊掲載)

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