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社説・コラム

『この人』 平和記念式典で平和の鐘を突く遺族代表 村田英美(むらた・ひでみ)さん

 広島市中区である市の平和記念式典で8月6日、遺族代表として「平和の鐘」を響かせる。「戦争は一瞬で幸せを奪う。子どもたちをはじめ、弱い立場の人が一番つらい思いをする戦争が、一日も早く世界からなくなることを願いたい」。5歳の時に母親を亡くした母禮子さん(80)の思いも背負って、鐘を突くつもりだ。

 76年前のあの日、当時25歳だった祖母のマサエさんは、爆心直下の広島県産業奨励館(現原爆ドーム)に働きへ出たまま消息を絶った。川内村(現広島市安佐南区)の自宅から、祖父、禮子さん、叔母の3人が捜しに行ったが見つけられず、祖母の遺骨は実家の墓にないままだ。

 自身は幼い頃、原爆の日に禮子さんと叔母に連れられて、川内にある慰霊碑に参っていた。禮子さんに、祖母や被爆当時の様子を聞いたことはない。それでも、時折口にする「お母さんが生きとったらね」との言葉から、これまでの苦労や無念さを感じてきたという。

 今年は、核兵器の使用や開発など一切を禁じる核兵器禁止条約が1月に発効して初の式典となる。新型コロナウイルス禍で参列者数が10分の1に絞り込まれる中、原爆死没者の冥福や平和を祈り、核兵器のない世界の早期の実現を誓う場となる。

 平和について考える機会の多い広島市で生まれ、2男1女を育て上げた。「私たちは戦争を知らない世代。この状態が将来も続いてほしい」と願う。これまで平和活動に関わったことはないが「仕事を引退して時間に余裕ができたら何かしてみたい」。東区で夫(62)と義母(89)、長女(27)の4人で暮らす。(余村泰樹)

(2021年7月10日朝刊掲載)

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