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在韓被爆者証言集 刊行から10年余 「我が身に刻まれた八月」日本語版発刊

政情変化で中断 有志が尽力

 朝鮮半島から強制連行され、広島・長崎で原爆被害に遭った在韓被爆者の証言集「我が身に刻まれた八月」の日本語版を、韓国の被爆者支援団体が発刊した。2008年に韓国語版を刊行した後、日本語版の制作に入ったが、韓国側の政情変化などで作業がたびたび中断。有志が尽力し、10年余の歳月を経て完成させた。(猪股修平)

 全601ページに広島11人、長崎9人の被爆者計20人の証言を収めた。軍需工場などへの強制連行や日本で受けた人種差別など、被爆にとどまらない苦悩や嘆きを記している。

 17歳で全羅南道(チョルラナムド)から連行された徐良錫(ソ・ヤンソク)さんは、福岡や熊本で飛行場建設などに従事した。18歳の時に広島駅近くで被爆し、首や足にやけどを負ったという。「みんな死んだ。人間がまるで市場に魚を並べたように倒れていて、正視できるもんじゃない」と当時を振り返った。

 洪順義(ホン・スニ)さんは21歳の時、観音町(現西区)の三菱重工業広島造船所で被爆した。わずかないり豆だけで飢えをしのぎつつ、下関から帰国するまでを証言している。

 聞き取りは、日本の植民地支配下の強制連行などを調べた韓国政府の調査委員会が04年から約4年間かけてまとめた。その後、日本側の日本語翻訳協力委員会が日本語版の制作に取りかかったが、政権の意向で編集作業が止まったり、方言の翻訳に困難を極めたりして、たびたび中断した。

 翻訳に携わった「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」の河井章子さん(64)=千葉県君津市=は「日本でこそ読まれるべき証言ばかりだ。多くの方が動員され、原爆に苦しめられたことを知ってほしい」と呼び掛けている。

 送料込みで千円。入手希望の申し込みは☎080(3891)0558。

(2021年7月13日朝刊掲載)

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