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被爆者や首長たち 困惑と歓迎 開催そのものが疑問 核廃絶 メッセージを

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が16日に広島市を訪れると決まった13日、被爆者団体や自治体関係者たちに困惑と歓迎の声が交錯した。新型コロナウイルスが首都圏などで再拡大する中、感染対策の徹底を求める声や、東京五輪の開催そのものを疑問視する意見が上がった。

 広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(79)は、コロナ禍を念頭に「オバマ米大統領(当時)やローマ教皇の訪問時とは状況が違い、疑問もある」と口にした。感染防止策の徹底が前提とした上で「資料館で子どもの遺品を見たり、被爆者の証言を聞いたりしてほしい。核兵器の脅威を感じ、廃絶のメッセージを世界に発信してほしい」と願った。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(76)は「コロナで多くの人が亡くなっている中、五輪開催そのものが問題だ。被爆者の中でも意見が割れるかもしれないが、今は広島を訪れるべきではない。この時期ではないなら歓迎したい」と複雑な心境を明かした。

 「平和を願うなら人命を大事にし、コロナを拡散させる可能性のある五輪は自粛するべきだ。IOCは商業主義を隠し、『五輪の精神は平和』とアピールするために広島を利用しているのではないか」。そう話すのは元広島市長の平岡敬さん(93)=西区。「『来る者は拒まず』だが『利用されるのはごめんだ』との姿勢を、広島は明確にしなければならない」と話した。

 国際平和活動に取り組むNPO法人「ANT―Hiroshima」(中区)の渡部朋子理事長(67)は「しっかりと資料館を見学し、原爆慰霊碑の前で未来の子どもたちのために核兵器廃絶を進めると世界に明言してほしい。その覚悟と思いがあるなら、平和の祭典のトップとして来る意味がある」と受け止めた。

 湯崎英彦知事と松井一実市長はそれぞれコメントを出した。湯崎知事は「核兵器の非人道性を深く認識してもらい、核兵器のない世界の実現へ力強いメッセージを発信してほしい」と要望。松井市長は「世界恒久平和を願う『ヒロシマの心』を世界のスポーツ界に広げる貴重な機会となり、歓迎したい」とした。

 県原水協はこの日、広島訪問に抗議する声明を日本オリンピック委員会(JOC)に郵送した。

(2021年7月14日朝刊掲載)

バッハ会長 16日広島へ 慰霊碑に献花 資料館見学

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