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年限設けず「現実路線」 機運醸成重視 具体的道筋に課題

 平和首長会議の新指針「PXビジョン」は「平和文化の振興」を柱に据え、核兵器廃絶に向けた市民社会の機運づくりに重点を置いた。前会長の秋葉忠利前広島市長の時代の「2020ビジョン」と異なり、廃絶の具体的な目標年限などは盛り込まなかった。世界の核情勢が厳しさを増す中、現会長である松井一実市長の「現実路線」を反映したと言えるが、廃絶への具体的な道筋は見えづらい内容となった。

 「『スローガンを掲げて注目を集め、できなかった』を繰り返すよりも、ゆっくりでも事態を確実に前進させる首長会議にしたい」。13日に市役所であった記者会見。松井市長の発言は、派手さを嫌う自らの政治姿勢を象徴していた。

 首長会議は1982年、広島、長崎両市の呼び掛けで「世界平和連帯都市市長会議」として発足した。平和市長会議、平和首長会議へと改名を重ねる中、運動として大規模化したのは秋葉前市長の時代だった。

 秋葉前市長は3期12年で外遊を重ね、加盟数は就任当初の10倍近い約4500都市に増えた。2020年までの廃絶、核兵器禁止条約の実現などを打ち出したのもこの時期で、年限は「被爆者が健在のうちに」との願いを具現化した。

 禁止条約は17年に成立、今年1月に発効したが、米ロの対立や中国の台頭などを背景に、廃絶を巡る状況は厳しさを増している。首長会議は今年1月のビジョンの総括で、禁止条約は実現したが、全ての核兵器の解体などの目標は「達成を見通すことすらできず」と厳しく自己評価した。

 今回の新ビジョンと行動計画では、核抑止論からの脱却を訴えつつも、廃絶の明確な年限は設けなかった。「年限設定できる判断材料がない」「いつになれば核兵器がなくなるかは読めない」と松井市長。新たに、芸術やスポーツなどを通じた平和文化の醸成へ力を入れると強調した。

 来年1月に予定されている禁止条約の締約国会議では、核兵器の全廃期限について「10年」を軸に議論するとの見通しが示されている。現実政治が意欲的な目標を示す中、首長会議の活動の大きな方向性を示すはずの「ビジョン」の推進力の弱さは否めない。

 首長会議は、広島と長崎の両被爆地の呼び掛けで成立している。被爆者や国内外の非政府組織(NGO)などは、廃絶で「被爆地の市長にけん引役となってほしい」との期待を高めている。現実路線を打ち出す中で、どのようなメッセージや行動を示していくかが問われる。(明知隼二)

(2021年7月14日朝刊掲載)

核兵器のない世界/安全で活力ある都市/平和文化の振興 平和首長会議が新指針 市民の軍縮教育にも力

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