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社説・コラム

社説 「黒い雨」原告再び勝訴 国は一刻も早い救済を

 広島への原爆投下後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を巡る全国初の訴訟で、救済に後ろ向きな国を、司法が再び断罪した。国は、その重みをしっかり受け止めなければならない。

 広島高裁はきのう、原告全面勝訴の判決を出した。内部被曝(ひばく)による健康被害の可能性を一審の広島地裁より前向きに認定。被爆者援護の救済対象を広げるよう行政に求める画期的な判断だと言える。原告団や弁護団の高い評価も、うなずけよう。

 訴訟の最大の争点は、黒い雨が降ったと国が考える区域の線引きが妥当かどうかだった。広島高裁は、その線引きより広い範囲で黒い雨が降ったと推し量るのが相当と判断した。

 国が線引きの根拠とした調査については、一審から「被爆直後の混乱期に限られた人手で実施された」など範囲やデータの限界が指摘されていた。高裁が認めなかったのも当然だろう。

 原告が被爆者援護法で定める「被爆者」に当たるかどうかという争点では、高裁は思い切った判断を示した。たとえ黒い雨を浴びていなくても、空気中の放射性微粒子を吸い込んだり飲料水に混入したのを飲んだり野菜に付着したのを食べたりして内部被曝による健康被害を受ける可能性があると指摘した。

 健康被害の恐れが否定できない限り、広く救済すべきだという判断のようだ。原爆特有の放射性物質による健康被害が、他の戦争被害とは異なる点を考慮して制定された被爆者援護法の趣旨を踏まえたに違いない。

 その上で、判決は、国の線引きの外で黒い雨を浴びるなどした原告も被爆者だとして、被爆者健康手帳を交付するよう広島市と広島県に対して命じた。

 地裁での敗訴から1年、国は住民の訴えに真剣に向き合ってきただろうか。この間、線引きを再検証する有識者の検討会を設け、議論を進めている。

 しかし積極的に救済する気があるか、疑念が拭えない。というのも一部の検討会委員の発言に違和感を覚えるからだ。例えば委員の一人は10万人以上が犠牲となった東京大空襲との兼ね合いを考える必要性を指摘し、原爆被害の特別視を否定する。「黒い雨」の線引きがテーマなのに、なぜ東京大空襲との均衡論を持ち出すのだろう。

 理由は容易に推測できる。この委員は、国の審議会に多用される「身内」である。今回の検討会でも、国の私的諮問機関「原爆被爆者対策基本問題懇談会」(基本懇)が1980年に答申した意見書を重視する発言を重ねている。意見書は、被爆者と認める区域の拡大は「科学的・合理的な根拠のある場合に限定して行うべきだ」と、国の思惑通りの指摘をしている。

 「黒い雨」問題でも国は、広島市や県の降雨区域拡大の要求をはねのける「盾」として、基本懇の意見書を使ってきた。それを支持してくれる委員は大歓迎だろう。だが、国はいつまで、私的諮問機関にすぎない基本懇の意見書を金科玉条にしておくつもりなのか。

 間もなく原爆投下から76年になる。高齢化が進む原告にとって救済までの時間は限られている。国は原告をはじめ、黒い雨を浴びた人たちを幅広く、しかも迅速に救済しなければならない。そのためにもまず、上告断念を決断すべきである。

(2021年7月15日朝刊掲載)

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