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磯永吉の遺品 福山市に 戦前台湾の農業振興に貢献 市出身 没後50年で展示検討

総統授与の勲章や小冊子

 福山市出身の農学者磯(いそ)永吉氏(1886~1972年)の遺品や資料が市に寄贈された。地元での知名度は高くないが、戦前の台湾の農業振興に貢献し、現地では約10年前に胸像が設置されるなど功績は今も色あせない。市は来年1月の没後50年などを見据えて展示会の開催を検討し、郷土の隠れた偉人に光を当てる。(川村正治)

 遺族から寄贈されたのは、1957年に台湾から帰国する際に当時の蔣介石総統から贈られた勲章や手紙、写真アルバムなど29点。磯氏の死後、関係者に配布した小冊子もあり、交流のあった学者が思い出話を寄せている。

 磯氏は1886年、現在の福山市霞町で生まれた。1912年に農事試験場の技手として現在の台湾に渡り、台湾在来のインディカ米と日本の米を交配させた「蓬萊(ほうらい)米」を開発した。終戦後も残り、台湾大で後進を育て農業開発に力を注いだ。

 帰国の際は、地方議会の台湾省議会がその功労に報いて毎年1200キロの蓬萊米を磯氏の存命中は送り続けると決議したとの逸話も残る。2012年には台湾大に胸像が設置された。

 市は昨年7月、遺族から遺品を借り受け、市立大図書館で学生や教職員向けに展示会を開催。市によると、その時の縁で遺族が寄贈を申し出て、4月に受け取ったという。

 資料を調べた同大都市経営学部の八幡浩二教授(45)=考古学=は「出身地の福山ではあまり知られていないが、台湾では今も尊敬されている偉人」と指摘。遺品の寄贈を受けて「展示などで活用することで、再評価のきっかけになる」と強調する。

 1月21日が磯氏の命日で、来年は没後50年の節目を迎える。遺品を管理する市文化振興課は「関連資料を収集するとともに、市民に見てもらう機会を今後検討したい」としている。

(2021年7月17日朝刊掲載)

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