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源流 開館30年 反戦の未来描く 柿手作品所蔵の三良坂平和美術館

毎夏作品展 作家と市民の発信拠点

 三次市三良坂町の三良坂平和美術館が7月、開館から30年の節目を迎えた。反戦画家として知られる同町出身の柿手春三(1993年に83歳で死去)の作品を中心に約千点の絵画を所蔵する同館は、命を重んじ、戦争のない世界の実現を願う作家と市民の発信拠点として個性を放っている。(石川昌義)

 「世界に笑顔を」「手と手をつなごう」…。展示室の壁面いっぱいに並ぶのは縦30センチ、横80センチの台紙にメッセージをあしらった「平和の灯ろうコンテスト」の出品作だ。平和記念公園(広島市中区)の原爆の子の像にささげられた折り鶴を再利用した折り紙を使って模様をあしらった作品を、2013年から毎年夏に同館が募集している。

 ことしは幼児から90歳代まで383点の応募があった。ちぎり絵教室の仲間と出品した甲奴町梶田の真田マツ子さん(84)は「新型コロナウイルス禍で実感した命の大切さや、穏やかな暮らしのありがたさを伝えたい」と話す。原爆ドームや原爆慰霊碑をモチーフに、「平和をまもる心 みんなが助け合う心」「飛べ天高く 禎子さんの千羽づる」などのメッセージを筆で大書した。

 寄せられた作品は、美術館前の三良坂平和公園で広島原爆の日の8月6日夜に市が主催する「平和のつどい」で灯籠として並べる。例年、広島東洋カープの若手も直筆メッセージを寄せ、ドラフト1位新人の栗林良吏投手(25)は「8月6日を忘れない」としたためた。4代目館長の元泉園子さん(63)は「素直な心情を発信する場として定着している」と手応えを実感する。

 同館の開館は1991年7月1日。広島市周辺で教師をしながら反戦、反核や海田湾埋め立て反対を訴え続けた柿手春三の作品だけでなく、柿手とともに広島平和美術展を運営した四国五郎、下村仁一、増田勉といった画家の作品も収蔵する。

 東広島市の画商芦田正美さん(83)は6月、連作「原爆の図」で知られる広島市安佐北区出身の日本画家丸木位里(95年に94歳で死去)が73年、欧州のスケッチ旅行で描いた作品1点を同館に寄贈した。芦田さんは「地元作家の作品を『平和』というテーマで体系付ける筋の通った美術館」と評価する。

 同館が毎年夏に開く「平和展」は、平和をテーマに創作する作家の展示が特徴だ。ことしは広島市中区の写真家堂畝紘子さん(39)が7月31日から作品展「生きて、繋(つな)いで―被爆三世の家族写真―」を開く。

 被爆者と家族を被写体にした作品を発表する堂畝さんは、戦時中に特攻隊の出撃拠点だった旧陸軍大刀洗飛行場に関する展示を行う大刀洗平和記念館(福岡県筑前町)や立命館大国際平和ミュージアム(京都市)でも作品展を開いてきた。「平和を掲げ、地域に根ざした美術館が広島にあるのは心強い」と話す。

 開館から30年を経て、通算来館者は約18万1千人を数える。元泉館長は「展示作のジャンルは幅広いが、平和を願う心情を表現する点が共通している。作品に向き合って穏やかな時間を過ごせる場所としての役割を今後も果たし続ける」と誓う。

(2021年7月19日朝刊掲載)

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