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社説・コラム

社説 防衛白書 台湾「有事」防ぐ努力を

 2021年版防衛白書が公表された。軍事力増強を図り、覇権主義を強める中国を、強くけん制する内容となっている。

 台湾を巡る米中対立が激化する可能性を示し、台湾情勢の安定が「日本の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」と初めて明記した。沖縄県・尖閣諸島周辺で、武装した中国海警局の船が侵入を繰り返していることに対しても、「国際法違反だ」と非難している。

 フィリピン沖の南シナ海でも強引に軍事拠点を整備するなど、中国の軍事拡張は確かに目に余る。「緊張感を持って注視する必要がある」との指摘はもっともだろう。

 しかし白書には、米中対立を背景に危機感をあおり、日米の防衛力強化を進めようとする意図が透ける。日本が憲法に沿って掲げる「専守防衛」の理念を貫く必要がある。

 「米国と中国との関係」という項目を設けたことも、今回の白書の特徴といえる。対立が激化する両国関係と、日本への影響について書き込んでいる。

 中国共産党創設100年の演説で習近平国家主席は、台湾統一は「歴史的任務」とし、台湾周辺で艦船や戦闘機の活動を活発化させている。力ずくで現状変更を試みようとする中国の行動はもちろん許されない。しかしそれに対し、日本は米国と歩調を合わせるばかりでいいのだろうか。

 菅義偉首相は4月の日米首脳会談で、日本の防衛力強化に決意を示した。白書も「真に実効的な防衛力」構築の必要性を強調している。

 岸信夫防衛相は、防衛力強化に関し、「これまでとは抜本的に発想を変えた形も必要になる」と述べ、22年度予算の概算要求では、防衛予算が過去最高だった21年度を上回る額で調整するという。だが、なし崩し的に防衛力強化を加速させれば、近隣諸国を刺激しかねない。

 しかも米中が全面対立することになれば、日本はその前線に立たされることになることを忘れてはならない。安全保障関連法では、仮に米国が攻撃され、日本の存立が脅かされたり安全に影響があると判断されたりすれば、自衛隊による後方支援が可能となる。

 現に首相は4月の日米首脳会談で、台湾有事が起きれば「存立危機事態」や「重要影響事態」に当たる可能性があり、「支援の用意がある」と米側に伝えている。まずは、冷静に情勢を把握し、有事を未然に防ぐ外交努力が最優先である。

 防衛費や防衛装備の増強も含め、攻撃的な発信を続ければ、国際社会の不信を招く。緊張関係にある国々の軍拡競争にもつながるだろう。

 白書では、気候変動が安全保障に与える影響を分析した項目も初めて設けた。気候変動による水や食料不足が、土地や資源を巡る政治的緊張や紛争を誘発する恐れがあるからだ。

 こうした地球規模の問題に協調して取り組む「人間の安全保障」こそ、日本の政策に求められているのではないか。

 日中関係は「戦略的互恵関係」を基調とし、経済的なつながりが強い。独自の非軍事的な戦略で、米中両国に自制を促すなど、緊張や対立を回避するアプローチに努めるべきだ。

(2021年7月22日朝刊掲載)

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